在庫の廃棄と記録|捨てる前に1行書く
目次
在庫の廃棄は、記録されずに現物だけが消えることがいちばん多い作業です。割れた、濡れた、期限が切れた。その場で捨ててしまうと、帳簿には数が残り、棚卸のときに原因不明の差として出てきます。
この記事では、在庫の廃棄を、記録が要る理由、捨てる前の手順、判断する人と線、処分の方法、減らすための見方の順に整理します。金額の処理と廃棄物の手続きは会社と地域で変わるため、経理部門と、自治体や処理業者に確認してください。
記録が要る理由
廃棄を記録する理由は3つあります。
1つ目は、在庫の数を合わせるためです。現物を捨てたのに帳簿の数が減っていなければ、そのぶんがずれます。棚卸のときに「帳簿より現物が少ない」という形で出てきますが、原因が分からないまま処理されます。棚卸差異の調べ方は棚卸差異の原因と対策にまとめています。
2つ目は、なぜ捨てることになったかを見るためです。期限切れが多いのか、破損が多いのか、仕様変更で使えなくなったのか。理由ごとに手当てが違います。記録が無ければ、毎年同じ理由で捨て続けます。
3つ目は、金額として説明するためです。捨てたぶんは損失になります。経理が処理するには、何を、いくつ、いつ、なぜ捨てたかが要ります。現場が渡すのは、この4つです。
捨てる前の手順
手順は単純です。捨てる前に1行書く。これだけで、上の3つが満たせます。
書くのは、日付、品番と品名、数量、理由、判断した人です。理由は、期限切れ、破損、汚損、仕様変更、不良、その他に分けておくと、あとで集計できます。紙でも表計算でも構いません。
現物は、捨てる前に廃棄の置き場へ移します。棚に残したまま「廃棄予定」の札を貼ると、出荷のときに間違って出ます。置き場を1か所決めて、そこに集めます。
そして、在庫から数を引きます。この更新が、いちばん抜けます。現物を移した時点で引くか、実際に処分した時点で引くかは、どちらでも構いませんが、決めておきます。
判断する人と線を決める
誰が捨ててよいかを決めておかないと、2つの問題が起きます。現場が勝手に捨てるか、誰も決めずに溜まるかのどちらかです。
金額で線を引くのが分かりやすい形です。「1万円までは現場の判断、それを超えたら上長へ」という決めです。線があると、ほとんどの廃棄はその場で片づきます。線が無いまま「全部報告」にすると、報告されないまま処分される形が生まれます。
線の金額は、扱う品物の単価で決めます。単価の低い消耗品が中心なら低く、高額品を扱うなら高くします。迷ったら、まず低めに決めて、報告が多すぎるようなら上げます。
判断する日も決めます。週に1回、廃棄の置き場を見て決める。現場に来て、現物を見ながら決めるのが要点です。書類だけを回すと、状態が分からないまま判断することになります。
処分のしかた
捨て方は、品物によって変わります。一般のごみとして出せるものと、産業廃棄物として処理が必要なものがあります。
自社から出る廃棄物の種類と、処理の方法は、自治体や処理業者の案内で確認します。産業廃棄物は、許可を持った業者に委託し、管理票などの手続きが必要になることがあります。扱いを誤ると、法令上の問題になります。判断に迷うものは、処理業者か自治体に確認してください。
そのまま捨てずに済む方法もあります。社内で別の用途に使う、値引きして販売する、仕入先に引き取ってもらう、リサイクルに回す。捨てる前に、この4つを一度見るだけで、処分の費用と損失が減ることがあります。処分の判断の順番は不動在庫の見つけ方にまとめています。
情報や個人の情報が含まれるもの、ブランドの表示があるものは、そのまま捨てられないことがあります。細断や、確実な処分の証明が求められる場合もあるため、扱いを確認します。
誰が現物を運ぶか
廃棄が進まない理由に、現物を運ぶ人がいないということがあります。判断は済んでいるのに、置き場から出す作業が誰の仕事でもない状態です。
運ぶ日を決めます。処理業者の回収の日に合わせるか、月に1回の決まった日に出す。日が決まっていれば、その日までに置き場から出せばよいので、判断も前倒しになります。
大きなものや重いものは、フォークリフトと人が要ります。出荷の忙しい日を避けて、荷役の手が空く日に回します。当日に「今から出す」となると、他の作業が止まります。
社内で処分できないものは、業者の手配が要ります。費用と日程を先に確かめておくと、判断のときに「捨てるといくらかかるか」が分かります。費用が分かっていないと、判断が先送りされます。
棚卸の前に済ませる
廃棄の判断は、棚卸の前に済ませておくと、当日が軽くなります。
数えなくてよいものが減り、棚卸表の行数も減ります。置き場に残ったままだと、それも数えるのか数えないのかで迷います。棚卸の1か月前に、廃棄の一覧を出して判断する日を作ると、両方が片づきます。
判断が間に合わなかった分は、棚卸のときにどう扱うかを決めておきます。数えるが在庫には含めない、別の集計にする、といった形です。決めていないと、毎年扱いが変わって比べられなくなります。
棚卸で見つかった破損品や期限切れも、その場で廃棄の対象として記録します。数えながら見つけたものを、その場で判断するのが、いちばん手戻りがありません。棚卸の進め方は棚卸のやり方にまとめています。
廃棄の理由を集計する
記録が溜まったら、理由ごとに集計します。これが、廃棄を減らすための出発点になります。
期限切れが多いなら、先入れ先出しの運用か、発注の量に原因があります。破損が多いなら、置き方か荷役の扱いです。仕様変更が多いなら、切り替えのときに旧版の在庫を確認する手順が抜けています。理由ごとに、直す場所が違います。
品目別にも並べます。特定の品目ばかり捨てているなら、その品目の持ち方そのものを見直します。発注の単位が大きすぎて使い切れないという形がよくあります。
金額でも並べます。件数が少なくても金額の大きいものから手を付けるほうが、効果が大きくなります。年間の廃棄の金額を出しておくと、対策にかける費用の目安にもなります。
廃棄と在庫の数字がずれる形
廃棄にまつわる記録漏れは、2つの方向でずれを生みます。
現物を捨てたのに帳簿を減らしていなければ、帳簿のほうが多くなります。逆に、帳簿を減らしたのに現物が置き場に残っていれば、現物のほうが多くなります。どちらも、判断から処分までの間に起きます。
これを避けるには、在庫から引くタイミングを1つに決めます。廃棄の置き場へ移した時点で引くなら、置き場にあるものは在庫ではありません。実際に処分した時点で引くなら、置き場にあるものは在庫として数えます。どちらでもよいので、決めて紙に書きます。
決めた扱いは、棚卸のときにも効きます。廃棄の置き場を数えるのか数えないのかが、毎年同じになります。扱いが年ごとに変わると、差の比較ができません。
減らすための見方
廃棄は、後始末です。減らすには、その前の段階に手を入れます。
期限のある品物は、先入れ先出しを置き方で守ります。手前から取る形にして、期限の近いものを一覧で出す。期限の30日前に知らせる形にしておくと、値引きや優先出荷の判断ができます。やり方は先入れ先出しのやり方にまとめています。
発注の量も見ます。まとめ買いの割引と、使い切るまでの期間を並べます。1年で使い切れない量を買っているなら、単価が安くても割に合いません。安全在庫の設定も同じで、勘で多めに持っていると、動きの鈍い品目ほど積み上がります。
仕様変更のときは、旧版の在庫数と使い切る計画を必ず確認します。切り替えの会議で1行入れるだけで、そのたびに発生する廃棄が減ります。
破損は、置き方と荷役の扱いです。重い物を下に、高い段に重い物を置かない、段積みの上限を決める。倉庫の中で壊れているぶんは、置き方でかなり減ります。
現場から声が上がる形にする
傷んでいる在庫にいちばん早く気づくのは、毎日棚を見ている人です。気づいたことを書く紙を、倉庫に置いておきます。
書くのは、品番、棚番、気づいたこと(濡れている、包装が破れている、期限が近い)の3つで足ります。判断を求めるのではなく、知らせるだけの紙にすると、書きやすくなります。
集まったものを、週に1回まとめて見ます。まだ使えるものは手当てをして、使えないものは廃棄の判断に回します。早く気づけば、値引き販売や社内利用の選択肢が残ります。期限が切れてからでは、捨てるしかありません。
書いた結果が何かにつながることも見せます。1件でも処分や手当てまで進んだら、その結果を現場に戻します。何も起きないと分かると、次から誰も書きません。
委託倉庫に預けている在庫の廃棄
営業倉庫に預けている在庫を処分するときは、倉庫会社との段取りが加わります。
まず、処分する対象と数量を倉庫会社に伝えます。引き取りに来てもらうのか、倉庫会社に廃棄まで頼めるのか、費用はいくらか。契約の範囲外の作業になることもあるので、先に確認します。
廃棄が済んだら、倉庫会社の在庫の記録からも外してもらいます。ここが抜けると、置いていない在庫に保管料がかかり続けます。自社の記録と、倉庫会社の報告の両方を突き合わせて確認します。
保管料の面でも、処分の効果は大きくなります。3期制では、動かない在庫にも毎期の積数がかかっています。「置いているだけ」の費用が毎月出ていくので、処分の判断が早いほど得になります。しくみは倉庫の保管料と3期制にまとめています。
廃棄の判断を早くする
同じ品物でも、判断が早いほど選べる道が多く残ります。期限の30日前なら値引き販売や優先出荷ができ、切れてからは捨てるしかありません。
早く判断するには、気づく仕組みが要ります。期限の一覧を週に1回出す、最終出庫日で並べた一覧を月に1回出す、現場からの気づきを拾う紙を置く。どれも手間は小さく、判断の選択肢を広げます。
判断する人が忙しくて来られない、という理由で遅れることもあります。その場合は、金額の線を上げて、現場で決められる範囲を広げるほうが実務的です。少額の判断で上長を待つ時間のほうが、捨てる金額より大きいことがあります。
判断が遅れて捨てるしかなくなった件数を数えておくと、遅れが生んでいる損失が見えます。この数字が出ると、判断の仕組みを変える話がしやすくなります。
よくある質問
廃棄の金額はどう処理しますか
評価損として計上するのか、廃棄損とするのか、原価に含めるのかは、会社の経理方針と税務の判断によります。経理部門か顧問の税理士に確認してください。現場が渡すのは、品番・数量・理由・日付の4つです。ここが正確なら、処理の判断ができます。
現場が勝手に捨ててしまいます
捨てる手順が無いことがほとんどです。「捨てる前に1行書く」と「廃棄の置き場に移す」の2つを決めて、紙を置き場に貼ります。金額の線も決めて、その範囲なら現場の判断でよいと伝えます。判断してよい範囲がはっきりすると、隠れて捨てる形が減ります。
廃棄の置き場が満杯になります
判断する日が決まっていないためです。週に1回、決まった曜日に見る形にします。判断する人が来られない週が続くと溜まるので、代わりの人も決めておきます。置き場を広げると、溜まる量が増えるだけで解決しません。
廃棄する前に売ることはできますか
品物と契約によります。値引き販売、社内での利用、仕入先への引き取り、リサイクルのいずれかが成り立つことがあります。ブランドや品質の面で、値引き販売ができない取り決めがある場合もあるため、条件を確認してから進めます。
廃棄を報告すると怒られるので、報告されません
報告を責める運用になっていると、隠れて捨てるか、置きっぱなしになります。廃棄は、起きたことを数える対象であって、人を評価する対象ではないという扱いにします。報告された件数が増えたときに「出してくれてよかった」と返すところから変わります。数字が悪く見えても、見えているほうが直せます。
廃棄の費用がかさみます
処分の費用そのものより、捨てることになった原因に手を入れるほうが効きます。理由ごとに集計して、いちばん多い理由から直します。あわせて、そのまま捨てずに済む方法(社内利用、値引き販売、引き取り)を一度見る習慣を作ると、処分に回る量が減ります。
記録はどのくらい残しますか
税務や契約で保存の条件が定められている場合は、それに従います。実務では、棚卸の差異を説明するために、少なくとも次の棚卸までは必ず残します。年間の廃棄の金額を出すためにも、年度ごとにまとめておくと使いやすくなります。
期限切れが毎年同じ品目で出ます
その品目の発注の量か、置き方に原因があります。年間の使用量と、1回の発注量を並べてみます。1回で1年ぶんを買っていれば、期限内に使い切れません。仕入先に、小分けでの納品ができるかを相談する価値があります。
少額の廃棄まで記録するのは手間ではありませんか
1行なので、手間は数秒です。少額の廃棄が積み上がって、棚卸の差になります。金額が小さいものほど、記録されずに消えやすく、原因も分からないままになります。記録する項目を5つに絞って、置き場のそばに紙を置けば続きます。集計は月に1回で足ります。
まとめ
在庫の廃棄でいちばん大事なのは、捨てる前に1行書くことです。日付、品番、数量、理由、判断した人。これだけで、在庫の数も、原因の分析も、経理への引き渡しも成り立ちます。
判断する人と、金額の線を決めておきます。線があれば、ほとんどの廃棄はその場で片づきます。判断する日を週に1回決めて、現物を見ながら決めます。
そして、記録が溜まったら理由ごとに集計します。期限切れ、破損、仕様変更。理由ごとに直す場所が違うので、集計しないと次の手が決まりません。