倉庫の生産性を測る|まず見る4つの数字
目次
倉庫の改善は、測っていないと効いたかどうかが分かりません。棚を移した、リストを並べ替えた、検品を厚くした。どれも良さそうに見えますが、何が変わったかを数字で言えないと、次の判断ができません。
この記事では、倉庫の生産性を、まず見る4つの数字、測り方、使い方、現場への返し方、増やしすぎない線の順に整理します。扱う品物と体制で見るべき数字は変わるため、自社に合うものを選んでください。
まず見る4つ
たくさん測っても続きません。この4つから始めます。
1つ目は、1時間あたりの処理行数です。ピッキングや検品で、1人が1時間に何行こなせたか。作業の速さを表す、いちばん基本の数字になります。
2つ目は、誤出荷の率です。出荷件数に対する誤出荷の件数。品質を表します。速さだけを追うと、ここが悪くなります。速さと品質はセットで見るのが要点です。
3つ目は、棚卸の差異率です。数えた棚のうち、帳簿と合わなかった割合。在庫の数字がどれだけ信用できるかを表します。
4つ目は、在庫の回転です。在庫がどれだけ動いているか。動いていない在庫が増えると、場所も費用も食います。
この4つで、速さ、品質、正確さ、量の4面が見られます。どれか1つだけを追うと、他が悪くなります。
測り方
特別な仕組みは要りません。いまある記録から出せます。
1時間あたりの処理行数は、1日の作業時間と、その日に処理した行数から出します。出荷指示の行数を数えて、作業に使った人時で割ります。人時は、その作業に関わった人数×時間です。休憩や他の作業に回った時間は引きます。
誤出荷の率は、誤出荷の件数を出荷件数で割ります。出る前に止めた件数は別に数えます。止めた件数が多いのは、検品が働いている証拠です。誤出荷の数え方は誤出荷の原因と対策にまとめています。
棚卸の差異率は、循環棚卸の結果から出ます。数えた棚のうち、合わなかった棚の割合です。品目数ではなく棚数で見ると、現場の感覚に近くなります。
在庫の回転は、一定期間の出庫金額を平均の在庫金額で割ります。金額が分からなければ、動いていない品目の数で代用できます。最終出庫日から日数を数えれば出せます。
作業の時間を測る
処理行数を出すには、作業に使った時間が要ります。タイムカードの時間ではなく、その作業に使った時間です。
厳密に測る必要はありません。1日の中で、ピッキングに何時間、検品と梱包に何時間、入荷に何時間。おおよその配分を、1週間だけ記録してみると、見当が付きます。毎日測る必要はなく、季節ごとに1週間測れば足ります。
測ってみると、思っていたのと違う配分になっていることがあります。出荷に時間を使っていると思っていたら、入荷と棚入れのほうが長かったという形はよくあります。手を入れる場所が変わります。
人ごとの時間ではなく、工程ごとの時間で出します。誰が何時間ではなく、どの工程に何時間です。この形にしておくと、現場に返すときにも使えます。
数字が悪くなったとき
改善したのに数字が悪くなることがあります。そのときこそ、記録が役に立ちます。
まず、条件が変わっていないかを見ます。出荷の量が増えた、新しい人が入った、扱う品目が増えた、繁忙期に入った。条件が違えば、数字が動くのは当然です。条件をそろえて比べます。
次に、手を入れたことが原因になっていないかを見ます。検品を厚くしたら処理行数が下がった、というのは当然の結果です。そのぶん誤出荷が減っていれば、狙いどおりです。1つの数字だけを見て失敗と決めないところが大事になります。
それでも説明が付かないときは、現場に聞きます。数字に出ない事情が必ずあります。設備の不調、通路の仮置き、他部署からの割り込み。現場が知っていることを拾うと、次の手が見つかります。
使い方
数字は、他社と比べるためではなく、自社の前月と比べるために出します。扱う品物と工程が違えば、水準はまったく変わります。
まず、いまの数字を出します。これが出発点です。そのうえで、手を入れたら、翌月に同じ数字を出して比べます。棚を移した月に処理行数が上がっていれば、置き場所の見直しが効いたということです。
数字が動かないときは、手を入れた場所が違います。ピッキングの並びを直しても処理行数が上がらないなら、時間を使っているのは歩く距離ではなく、探す時間かもしれません。測ることで、次にどこを見るかが決まります。
1つの数字だけを目標にしないところも大事です。処理行数だけを追うと、確認が飛んで誤出荷が増えます。2つ以上を並べて見ることで、片方を犠牲にしていないかが分かります。
現場への返し方
数字は、出して終わりにすると、測るための仕事になります。現場に返して、初めて意味が出ます。
返すときは、人ではなく工程の数字として返します。「誰が遅い」ではなく「この工程で時間がかかっている」という形です。人の比較にすると、数字を良く見せるための行動が始まります。
月に1回、A4の1枚で足ります。4つの数字と、前月との比較、手を入れたこと、次に見る場所。壁に貼るだけでも、続けているうちに変化が見えます。
良くなったときに伝えるのが、いちばん効きます。「先月より誤出荷が減りました」と共有するだけで、検品の丁寧さが続きます。悪くなったときだけ数字を出すと、数字が嫌われます。
改善と数字をつなげる
手を入れたことと、数字の動きを並べて記録します。いつ、何を変えたかを、数字の表に線として書き込みます。
「4月:ピッキングリストを棚番順にした」「6月:上位20品目を入口側へ移した」「9月:出荷検品の対象を絞った」。この線があると、どの手当てで数字が動いたかが後から読めます。
効かなかった手当ても記録に残します。やってみて効かなかったことが分かるのも成果です。記録が無いと、数年後に同じことをもう一度試すことになります。
手当ての費用も書いておくと、次の判断に使えます。費用をかけずに効いたもの、費用をかけたが効かなかったもの。この対比が、投資の判断の材料になります。
小さく始める
最初から全部を測ろうとすると、集計の作業が仕事になります。1つの数字を1か月測るところから始めます。
いちばん困っていることに近い数字を1つ選びます。出せば、いまの水準が分かります。それを見て何かを変えて、翌月にまた測る。このひと回りを1回やると、測る意味が分かります。
意味が分かってから、2つ目を足します。数字が増えるのは、必要になったときだけです。人から言われて増やした数字は、たいてい見られなくなります。
そして、続けることがいちばん効きます。3か月続けた4つの数字は、1回だけ出した10個の数字より役に立ちます。並べたときに、動きが読めるからです。
増やしすぎない
測る数字は、増やすほど管理が重くなります。10個の数字を毎月出すより、4つを1年続けるほうが役に立ちます。
増やすのは、それを見て行動が変わるときだけです。数字を見ても何もしないなら、その数字は要りません。逆に、いま見ている数字で判断できないことがあるなら、1つ足します。
数字を出すのにかかる時間も見ます。毎月半日かかる集計は続きません。いまある記録から、30分で出せる形にしておきます。表計算の集計を作っておけば、翌月からは数分で終わります。
年に1回は、見ている数字そのものを見直します。去年は要ったが、今年は見なくてよい数字が出てきます。減らすことも、見直しの一部です。
他の数字を足すなら
4つで足りなくなったら、次の候補があります。いま困っていることに合うものを1つ選びます。
出荷の遅れが問題なら、締め時刻までに出荷できた率を見ます。人の入れ替わりが問題なら、新しい人が一人前になるまでの日数です。場所が足りないなら、保管の充填率を見ます。
費用の面を見るなら、1行あたりの物流コストがあります。人件費、資材費、保管料、配送費を足して、処理行数で割ります。費用の内訳が分かると、どこに手を入れるかが決まります。
どれを足す場合も、測る手間と、それで変わる行動を天秤にかけます。出すのに時間がかかる数字は、たいてい続きません。
経営に伝えるとき
倉庫の数字を経営に伝えるときは、費用と売上につながる形に言い換えます。
処理行数が上がったなら、同じ人数で何件多く出せるようになったか。誤出荷が減ったなら、その対応にかかっていた時間と費用がどれだけ減ったか。在庫の回転が良くなったなら、減った在庫の金額と、保管料の差。倉庫の中の言葉のままでは、判断の材料になりません。
投資をお願いするときも同じです。「棚を入れたい」ではなく、「棚を入れると1日30分の探す時間が消えて、年間で何時間になる」という形にします。効果が数字で言えると、判断が進みます。
効果が出なかったときも報告します。効かなかったことが分かるのも、次の判断に要る情報です。隠すと、同じ投資を繰り返すことになります。
委託している倉庫の数字を見る
自社で倉庫を持たず、営業倉庫に委託している場合も、数字は要ります。見る場所が、自社の現場から報告に変わるだけです。
倉庫会社から受け取れるのは、入出庫の件数、在庫の残高、誤出荷や破損の件数、棚卸の結果です。契約で報告の頻度と項目が決まっていることもあるので、まず何がもらえるかを確かめます。
自社で持っている数字と突き合わせます。発注した数と入荷の報告、出荷の指示と出荷の実績。食い違いが続く項目があれば、そこに原因があります。日付のずれか、記録の漏れかで、話す相手が変わります。
費用の面も同じ形で見られます。保管料、入出庫料、配送料を、出荷の件数で割れば、1件あたりの費用が出ます。この数字が上がっているなら、量が減ったのか、単価が上がったのかを分けて見ます。保管料のしくみは倉庫の保管料と3期制にまとめています。
誰が数字を出すか
集計する人を1人決めます。現場の作業をしながら片手間に出す形だと、忙しい月に飛びます。月末に30分取れる人を決めて、その時間を業務として確保します。
出す人と、使う人が違ってもかまいません。出すのは事務の担当、使うのは現場の責任者、という形でも回ります。大事なのは、出した数字が見られる場所に届くことです。ファイルの奥にあると、誰も開きません。
数字の定義も、決めた人が管理します。「処理行数」に入荷の行を含めるのか、返品の処理を含めるのか。定義が月ごとに変わると、比べられなくなります。最初に決めて、紙に書いておきます。
担当が代わるときは、定義と集計の手順を引き継ぎます。式が入った表計算のファイルを渡すだけでは足りません。何をどこから取っているかを1枚にしておくと、続きます。
よくある質問
他社の水準を知りたいのですが
扱う品物、荷姿、工程の自動化の度合いで大きく変わるため、他社の数字はあまり参考になりません。同じ「1時間あたり100行」でも、ケース単位とバラ単位では意味が違います。自社の前月と比べるのが、いちばん確かな見方になります。
数字を出す時間がありません
いまある記録から、30分で出せる形にします。出荷指示の行数と、作業時間と、誤出荷の件数。この3つだけなら、月末に集計するだけで出ます。表計算の式を一度作っておけば、翌月からは数分です。全部を一度に始めず、1つずつ足します。
現場が数字を嫌がります
人の評価に使われると思われているためです。工程の数字として返す、良くなったときに伝えるの2つで変わります。悪い月に犯人を探す使い方をすると、その場で信頼が切れます。数字は、どこに手を入れるかを決めるためのものだと、最初に伝えます。
季節で数字が大きく動きます
繁忙期と閑散期を分けて見ます。前月と比べるより、前年の同じ月と比べるほうが実態に近くなることがあります。両方を並べて見られる形にしておくと、季節の波と、手当ての効果を分けて読めます。
どの数字から始めればよいですか
いちばん困っていることに近いものから選びます。誤出荷で困っているなら誤出荷の率、在庫が合わないなら差異率、作業が終わらないなら処理行数。1つ測り始めて、それで足りなければ次を足します。4つを一度に始めると、集計が重くて続きません。
人によって処理行数の差が大きいです
まず、経路と置き場所を見ます。速い人がどう回っているかを1回見てみると、リストの並びや置き場所の問題が見つかることがあります。個人の速さの差として扱う前に、条件をそろえます。条件をそろえても差が残るなら、やり方を共有する場を作ります。数字で人を比べるのではなく、速いやり方を全員のものにする形にします。
記録が無くて測れません
まず記録から始めます。出荷の行数、作業の時間、誤出荷の件数。どれも、毎日1行書けば溜まります。1か月ぶん溜まれば、最初の数字が出ます。測るために新しい仕組みを入れる必要はなく、いまの作業に1行足すところから始められます。
目標の数字は誰が決めますか
現場と一緒に決めるほうが守られます。上から与えられた目標は、達成のための工夫ではなく、数字を良く見せる工夫を生みます。いまの水準を出して、次の3か月でどこまで、という刻み方にすると現実的になります。到達できなかったときに、原因を一緒に見る場があることのほうが大事です。
まとめ
倉庫の生産性は、1時間あたりの処理行数、誤出荷の率、棚卸の差異率、在庫の回転の4つから始めます。速さ、品質、正確さ、量の4面が見られます。
数字は、他社ではなく自社の前月と比べます。手を入れた月に動いていれば効いていて、動かなければ見る場所が違ったということです。
そして、現場には工程の数字として返します。人の比較にすると、数字を良く見せる行動が始まります。良くなったときに伝えることを続けると、数字が嫌われずに定着します。