棚卸差異とは?在庫が合わない原因と対策
目次
棚卸差異は、どの倉庫にも出ます。まったくゼロという倉庫のほうが珍しく、多くの現場は「どこまでなら許すか」を決めて運用しています。問題になるのは差が出たこと自体ではなく、差の原因が分からないまま、毎回同じ大きさの差が出続けている状態です。
この記事では、棚卸差異を、大きさの測り方、原因の5分類、調べる順番、工程ごとの直し方、記録の残し方の順に整理します。金額としての処理や仕訳は会社の経理方針で変わるため、数字の扱いは経理部門か顧問の税理士に確認してください。
棚卸差異とは何か
棚卸差異は、帳簿上の在庫数と、実際に数えた在庫数の差を指します。「在庫が合わない」と言われるときの、その差のことです。
差の向きによって、意味が変わります。
| 向き | 呼び方 | 起きていること |
|---|---|---|
| 帳簿 > 現物 | 減耗・棚卸減耗 | 現物が足りない。紛失・出しすぎ・記録漏れ |
| 帳簿 < 現物 | 過剰 | 現物が多い。入れすぎ・出荷したのに記録だけ進んだ |
現場では「足りない」ほうばかりが問題にされますが、多いほうも同じくらい危険です。帳簿より現物が多いということは、どこかの記録が現実と違っているということで、次は足りない側に振れます。
棚卸差異の大きさを測る
差異を「何個ずれた」で見ていると、品目が増えたときに比べられなくなります。率にしておくと、倉庫どうし・年どうしで比べられます。
一般に使われるのは次の2つです。
| 指標 | 出し方 | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 差異率(数量ベース) | 差異のあった数量 ÷ 棚卸した総数量 | 現場の作業精度 |
| 差異率(金額ベース) | 差異の金額 ÷ 棚卸した総額 | 経営へのあたり |
| ロケーション精度 | 差異の無かった棚 ÷ 数えた棚 | 場所の管理の精度 |
現場を良くしたいなら、金額よりも数量と棚の率を見ます。金額は単価の高い品目に引っ張られるので、作業のどこが弱いかが見えなくなります。
どこまでなら許すか
許容範囲は法令で決まっているものではなく、会社が決める運用の線です。扱う品物の単価と、1回の差が与える影響で変わります。
- 高額品・危険物・医薬品などは、1個の差も原因を追う
- 単価の低い消耗品は、率で線を引いて、超えたときだけ調べる
大事なのはここです。線を決めたら、超えたときに必ず調べる。線を決めずに「全部調べる」と言うと、実際には何も調べられません。
棚卸差異の原因は5つに分かれる
原因は、工程で分けると整理できます。入荷・保管・出荷・記録・棚卸そのものの5つです。
| 工程 | よくある原因 |
|---|---|
| 入荷 | 納品数と伝票が違う。検品せずに棚入れした |
| 保管 | 場所違い、破損・廃棄の記録漏れ、盗難・紛失 |
| 出荷 | 数量違いで出した、誤出荷、返品の戻し漏れ |
| 記録 | 入力漏れ、二重入力、締めの前後のずれ |
| 棚卸 | 数え間違い、二重カウント、単位の取り違え |
実務では、棚卸そのもののミスがいちばん多く、次に場所違いという順になることが多いです。最初から盗難を疑うと、現場の空気が悪くなるわりに、ほとんど当たりません。
調べる順番を決めておく
差が出るたびに全部を調べるのは、現実には続きません。当たりやすい順に見て、一定のところで打ち切る形にします。
- もう一度数える
- 同じ品番が近くの棚に無いか見る
- 締めの前後の伝票を見る(入荷待ち・出荷済み未計上)
- 直近の入出庫の記録をたどる
- ここまでで分からなければ「原因不明」として記録する
1と2で半分以上が片づきます。逆に、いきなり4から入ると時間がかかるわりに何も出ません。
打ち切る線を決める
「1件あたり15分まで調べる」のように、時間で線を引きます。線が無いと、差異の調査が棚卸より長くかかります。打ち切ったものは原因不明として残し、件数が増えたときに改めてまとめて見ます。
実際に使える様式が必要な方へ
差異の調査票や棚卸表を一から作ると手間がかかります。既成の様式でよければ、点検板の姉妹サイトである在庫板に無料のExcelがそろっています。
在庫板で様式をさがす入荷でつくらないための直し方
入荷でずれると、その後の工程すべてがずれたまま進みます。ここがいちばん元をたどりやすい場所です。
- 納品書の数量と、実際に受け取った数量をその場で照合する
- 数が違ったら、受け取った数を書いて、差を先方に連絡する
- 検品が終わるまで、棚に入れない(入荷待ちの置き場を分ける)
「あとで数える」が最大の原因になります。棚に入ってしまうと、既存の在庫と混ざって、もう分けられません。入荷検品の組み方は検品のやり方にまとめています。
保管でつくらないための直し方
保管中に起きる差は、場所が決まっていないことから生まれます。
| 起きること | 手当て |
|---|---|
| 同じ品番が複数の棚にある | 1品番1か所にまとめる。やむを得ず分けるなら両方を帳簿に持つ |
| 現品を見ても品番が分からない | 現品表示を貼る。棚のラベルと同じ書き方にそろえる |
| 破損・廃棄が記録されない | 廃棄の箱を1つ決め、出すときに必ず1行書く |
破損と廃棄の記録漏れは、実務でかなりの割合を占めます。割れた、濡れた、期限が切れた。その場で捨ててしまうと、帳簿だけが残ります。「捨てる前に1行書く」を作業に入れると、原因不明の減耗が目に見えて減ります。棚番の付け方はロケーション管理のやり方に書いています。
出荷でつくらないための直し方
出荷側の差は、多くが数量違いです。品番を間違えれば誤出荷として相手から連絡が来ますが、数量が1つ多いだけだと、気づかれないまま在庫だけが減ります。
- 出荷の検品で、品番だけでなく数量を声に出して確認する
- ケースとバラが混ざる出荷は、バラだけ別に数える
- 返品を受け取ったら、その日のうちに戻し入れる
返品の戻し漏れは、帳簿より現物が多い差として出ます。返品の置き場を「戻し待ち」と決めて、その棚を空にする担当を置くと止まります。誤出荷そのものを減らす手順は誤出荷の原因と対策にまとめています。
記録と締めでつくらないための直し方
記録側のずれは、時刻のずれとして出ます。現物は動いたのに記録が翌日、記録は進んだのに現物は明日、という形です。
- 入出庫の記録は、その日のうちに入れる
- 棚卸の締めの時刻を決め、前後の伝票を分けて置く
- 月をまたぐ入出荷は、どちらの月に付けるかを先に決める
締めのずれは、差の数量が伝票の数量とぴったり一致するので、見分けは簡単です。差を見つけたら、まず締め前後の伝票を数えます。
差異を記録に残す
いちばん効くのに、いちばん抜けるのがここです。その場で数を合わせて終わりにすると、翌年に同じ差が出ても比べられません。
差異の調査票に残す項目は、最低限この5つです。
| 項目 | 書き方 |
|---|---|
| 発見日・棚番・品番 | どこで出たか |
| 帳簿数・実数・差 | いくつずれたか(向きも分かるように) |
| 調べた範囲 | 何を見たか。打ち切ったならそう書く |
| 推定原因 | 5分類のどれか。分からなければ「不明」 |
| 手当て | 帳簿を直したか、作業を変えたか |
「不明」を正直に書くほど、あとで役に立ちます。不明の件数が特定の棚や品目に偏っていれば、そこに何かがあります。無理に理由を付けた記録は、その手がかりを消してしまいます。
差異を早く見つける仕組みにする
年1回の棚卸だけで差を見つけていると、原因をたどれる範囲を超えます。3か月前の伝票を追いかけても、覚えている人がいません。
早く見つけるための方法は、大きく2つあります。
循環棚卸で毎日少しずつ数える
棚や品目を区切って、毎日決まった数だけ数えます。1日30行でも、20営業日で600行になります。差が出たときに「先週から今週の間」まで絞れるので、伝票をたどる範囲が一気に小さくなります。
回す順番は、金額と動きで決めます。
| 区分 | 回す頻度の目安 |
|---|---|
| 動きが多い・単価が高い | 月1回 |
| 動きが多い・単価が低い | 3か月に1回 |
| 動かない | 年1回(期末の一斉棚卸で足りる) |
ゼロ在庫の確認を作業に入れる
在庫が最後の1つを出た瞬間は、差が見つかる好機です。帳簿がゼロになったときに棚を見て、現物も空なら一致、残っていれば差が出ています。ピッキングの担当が「最後の1つを取ったら棚を見る」だけで、費用をかけずに確認できます。
差異を減らす手を、効く順に並べる
どれも正しい対策ですが、効き方の大きさと、かかる費用はまったく違います。次の順で手を入れると、少ない費用で率が下がりやすくなります。
| 順 | やること | 費用 |
|---|---|---|
| 1 | 棚番を振り、現品に表示を貼る | ほぼゼロ |
| 2 | 入荷検品が終わるまで棚に入れない | ほぼゼロ |
| 3 | 捨てる前に1行書く(破損・廃棄の記録) | ほぼゼロ |
| 4 | 出荷時に数量を声に出して確認する | ほぼゼロ |
| 5 | 循環棚卸を始める | 人の時間 |
| 6 | バーコードやハンディを入れる | 費用がかかる |
上の4つは、今日から始められて、しかも効きます。システムの検討は、この4つをやってからでも遅くありません。逆に、1から4が抜けたままシステムを入れると、ずれた情報が速く正確に記録されるだけになります。
差異を現場に見せる
数字は、見える場所に貼ると変わります。倉庫の入口に、前回の棚卸差異率と、差が多かった棚の番号を貼るだけで、その棚の扱いが変わります。
貼るときのコツは3つあります。
- 犯人を探す形にしない。棚の番号までにして、人の名前は出さない
- 前回と今回を並べる。1つの数字だけだと良し悪しが分からない
- 下がったときに、必ずその場で伝える
差が出やすい品目には型がある
すべての品目が同じように差を出すわけではありません。次のどれかに当てはまる品目は、最初から重点的に見ておくと手間が減ります。
| 型 | なぜ差が出るか |
|---|---|
| 似た品番が並んでいる | 取り違えが起きる。数は合っても品番がずれる |
| 入数が複数ある(ケース・ボール・バラ) | 単位の取り違えで、1回に24個ずれる |
| 期限がある | 期限切れの抜き取りが記録されない |
| 小さくて軽い | まとめて掴むため、数が数えにくい |
| 高額で小さい | 紛失が分かりにくい |
単位の取り違えは、差が大きく出る
「1」の差ではなく「1ケースぶん」の差として出るので、率にすると跳ねます。ケースとバラが混ざる品目は、棚卸表の実数欄を「ケース」「バラ」の2列に分けておくと、書く側が迷いません。
似た品番は、棚を離す
品番が似ていて取り違えが多い品目は、わざと離れた棚に置くという手当てがあります。隣に並べると、目で見て間違えます。色の違うラベルを貼るのも効きます。
経理に渡すときの伝え方
棚卸差異は、最後に経理へ渡します。このとき、数量と理由を分けて渡すと話が早くなります。
- 数量:品番ごとに、帳簿数・実数・差
- 理由:5分類のどれか。不明なら不明
- 時期:いつからずれていたと考えられるか
経理が知りたいのは「いくらの損になるか」と「来期も続くのか」の2つです。理由の欄が全部空白だと、来期の見通しが立ちません。逆に、不明が多くても「不明が特定の棚に偏っている」と言えれば、そこに手を打つ話ができます。
金額の処理そのもの(棚卸減耗損として計上するか、原価に含めるかなど)は会社の経理方針と税務の判断になります。現場が決めることではないので、数量と理由を正確に渡すところまでを受け持ちます。
よくある質問
棚卸差異はゼロにできますか
数量の差をゼロに近づけることはできますが、ゼロを目標にすると、現場が差を報告しなくなるという副作用が出ます。多くの倉庫では、許容の線を決めて、超えたときに必ず原因まで戻る運用のほうが、結果として精度が上がりやすいです。
差異率はどのくらいが普通ですか
扱う品物と管理の方法で幅が大きく、他社の数字と比べてもあまり役に立ちません。自社の前回と比べるのが実務的です。まず今回の率を測り、次の棚卸で下がっているかどうかを見ます。
原因不明の差はどう処理しますか
数量としては現物に合わせ、記録には「原因不明」と残します。金額としての処理(棚卸減耗損として費用にするかどうかなど)は会社の経理方針と税務の判断になるため、経理部門か顧問の税理士に確認してください。
盗難を疑うべきなのはどんなときですか
まず数え間違いと場所違いをつぶしたうえで、特定の品目だけが、毎回、同じ方向に減っているときが目安になります。この段階ではまだ確定ではないので、人を疑う前に、その品目の保管場所と出庫の記録から見ていくのが安全です。
棚卸の当日に差を直してしまってよいですか
数え直して合ったものは、その場で確定させて構いません。問題になるのは、数え直しても合わないものを、その場で帳簿に合わせて消してしまうことです。棚番と品番、差の向きだけでも紙に残してから直します。あとから調べられる形が残っていれば、当日の作業は止めなくて済みます。
委託している倉庫(3PL)の差異はどう扱いますか
契約に、差異が出たときの負担と報告の取り決めが書かれているのが一般的です。まず契約書の該当条項を確認するところから始めます。そのうえで、月次で差異の件数と率の報告を受け取る形にしておくと、期末にまとめて驚くことが無くなります。数字の扱いや責任の範囲は契約内容によって変わるため、委託元・委託先の双方で確認してください。
システムを入れれば差異は無くなりますか
入出庫の記録漏れと入力ミスは大きく減ります。一方で、場所違い・破損の記録漏れ・締めのずれは、運用の決めごとが無いと残ります。先に「捨てる前に1行書く」「入荷検品まで棚に入れない」といったルールを整えてから入れると、投資が効きやすくなります。
まとめ
棚卸差異は、帳簿と現物のずれです。足りない側だけでなく、多い側も同じ問題を抱えています。まず率にして測り、どこまでなら許すかの線を決めるところから始めます。
原因は、入荷・保管・出荷・記録・棚卸の5つに分かれます。調べる順番は、数え直し、場所違い、締め、記録の順です。ここで見つからなければ、時間で打ち切って「原因不明」として残します。
そして、差を消すだけで終わらせないことです。棚番・品番・差の向き・調べた範囲を記録に残しておくと、翌年に同じ差が出たときに、はじめて比べられるようになります。