棚卸のやり方は?準備と当日の手順を解説
目次
棚卸は、倉庫の仕事のなかで「人手も時間もいちばんかかるのに、終わったあとに何も残らない」と言われやすい作業です。実際には、棚卸の出来で翌月の出荷精度も発注の精度も変わります。数えること自体より、数える前に何を決めておくかで結果がほとんど決まる作業です。
この記事では、棚卸を、種類の分け方、前日までの準備、当日の手順、数え方の決まり、差が出たときの扱いの順に整理します。会計上の評価や仕訳の扱いは会社の経理方針によって変わるため、金額の処理については顧問の税理士や経理部門に確認してください。
棚卸とは何をする作業か
棚卸は、帳簿に載っている在庫の数と、現物の数を突き合わせる作業です。一般には次の2つに分けて呼ばれています。
| 呼び方 | 中身 |
|---|---|
| 帳簿棚卸 | 入出庫の記録から、いまの在庫数を計算で出す |
| 実地棚卸 | 倉庫に行って現物を数える |
現場で「棚卸」と言われるときは、ほとんどが後者の実地棚卸を指します。この2つを突き合わせて、差があれば原因を調べ、最後に帳簿を現物に合わせるところまでが一続きの作業です。
大事なのはここです。棚卸は数えることが目的ではなく、帳簿を現実に合わせ直すことが目的になります。数えて終わりにすると、翌日から同じずれが積み上がっていきます。
棚卸の種類は2つある
やり方は大きく2通りあり、どちらが良いというより、倉庫の止められる時間で決まります。
一斉棚卸
決めた日に倉庫全体を止めて、全品目を一度に数えるやり方です。決算期末に合わせて年1回か2回、行っている会社が多くあります。
- 長所:ある一時点の在庫がそろって確定する。会計の数字と合わせやすい
- 短所:入出荷を止める必要がある。人数と時間がまとまって要る
循環棚卸
品目や棚を区切って、毎日または毎週、少しずつ数えていくやり方です。「サイクルカウント」と呼ばれることもあります。
- 長所:倉庫を止めない。差異に早く気づける
- 短所:全体が同じ時点でそろわない。計画と進捗の管理が要る
出荷を止められない倉庫では、循環棚卸を軸にして、期末だけ一斉棚卸を行うという組み方が扱いやすくなります。年1回の一斉棚卸だけにすると、差が見つかったときに「いつからずれていたのか」をたどれなくなります。
棚卸の前に決めておく4つのこと
棚卸で混乱が起きるところは、だいたい当日ではなく準備で決まります。次の4つを、紙に書いて全員に配れる状態にしておくのが出発点です。
| 決めること | 決めていないと起きること |
|---|---|
| 締めの時刻 | どの伝票までを在庫に含めるかで数が食い違う |
| 数える単位 | ケースで数える人とバラで数える人が混ざる |
| 数えない物の扱い | 返品待ち・不良品・預り品を数えたり数えなかったりする |
| 記入のしかた | 空欄が「ゼロ」なのか「未確認」なのか分からなくなる |
締めの時刻
「何時時点の在庫を数えるのか」を決めます。棚卸の直前に入ってきた荷物、当日の朝に出ていった荷物をどちらに含めるかが、差異のいちばん多い原因になります。
実務では、前日の出荷が終わった時点で締め、当日の入荷は棚卸が終わるまで別の場所に固めて置いておくやり方が扱いやすいです。置き場に「棚卸対象外」の紙を貼っておくと、数える人が迷いません。
数える単位
ケース・ボール・バラが混ざる品物では、単位を1つに決めます。「1ケース=24本」といった入数の一覧を、棚卸表と一緒に配ります。
数えない物の扱い
倉庫には、自社の在庫ではない物や、在庫として数えたくない物が置かれています。
- 預り品(荷主のもので、自社の資産ではないもの)
- 不良品・返品待ち・廃棄待ち
- 販促品・サンプル・什器
数えるか数えないかを決めたうえで、「数えるがマークを付ける」形にしておくと、あとから見直せます。最初から除外すると、翌年に誰も理由を思い出せなくなります。
棚卸当日の手順
当日は、次の順で進めるのが一般的です。人を配る前に、区画の割り当てを紙で確定させておきます。
- 区画とその担当者を割り当てる(1人が受け持つ棚を明確にする)
- 棚卸表を配る。棚番の順に並んでいるものを使う
- 数える。1区画が終わるごとに提出する
- 帳簿の数と突き合わせる
- 差があった区画だけ、もう一度数える
- 差の原因を調べ、帳簿を修正する
数え方は2人1組が基本
1人が数えて、1人が書く。この形にすると、数を声に出すぶん間違いが減り、書き写しのミスも見つかります。人数が足りないときは、1人で数えたあとに別の人が抜き取りで再確認する形にします。
数えた棚に印を残す
数え終わった棚に、マグネットや札で印を付けていきます。「数えたかどうか」が見て分かる状態になっていないと、二重に数えた棚と、まだの棚が混ざります。棚卸のやり直しのうち、かなりの部分がこれで防げます。
実際に使える様式が必要な方へ
棚卸表や棚卸差異の調査票を一から作ると手間がかかります。既成の様式でよければ、点検板の姉妹サイトである在庫板に無料のExcelがそろっています。
在庫板で様式をさがす数えた結果をどう書くか
棚卸表は、棚番の順に並んでいることがいちばん大事です。品番順の表を持って倉庫を歩くと、人が棚の間を何度も往復することになります。
| 列 | 何を書くか |
|---|---|
| 棚番 | 数える順番に並べる。歩く順路と同じにする |
| 品番・品名 | 現品表示と同じ書き方にそろえる |
| 帳簿数 | 見せるかどうかは方針で決める(次の節) |
| 実数 | 数えた数。単位も書く |
| 備考 | 破損・期限切れ・場所違いを書く |
帳簿の数を見せるかどうか
帳簿数を伏せて数えるやり方(ブラインドカウント)があります。数が見えていると、無意識にその数に合わせてしまうためです。
一方で、伏せると差異の確認に時間がかかります。1回目は伏せて数え、差が出た棚だけ帳簿数を見ながら数え直すという組み方にすると、精度と時間の両方が収まりやすくなります。
差が出たときにやること
棚卸で差が出るのは珍しいことではありません。大事なのは、差を消すことではなく、どこで生まれたかを残すことです。
差が出たときの手順は次のようになります。
- もう一度数える(数え間違いが最も多い)
- 近くの棚を見る(場所違いが次に多い)
- 締めの前後の伝票を見る(計上のタイミングのずれ)
- 入荷・出荷の記録をたどる(記録漏れ、誤出荷)
- 以上で見つからなければ、原因不明として記録に残す
原因不明を「0件」にしようとしないのが実務のコツです。無理に理由を付けると、翌年に同じ差が出たときに比べられなくなります。詳しい調べ方は棚卸差異の原因と対策にまとめています。
よくある差のパターン
差が出たときに最初に疑う場所は、だいたい決まっています。
| パターン | 見分け方 |
|---|---|
| 数え間違い | もう一度数えると合う。単純な見落としが多い |
| 場所違い | 隣の棚や別の階に同じ品番がある。合計は合う |
| 締めのずれ | 差の数が、締め前後の伝票の数量と一致する |
| 記録漏れ | 現物は減っているのに、出荷の記録が無い |
合計は合っているのに棚ごとに合わないときは、ほぼ場所違いです。この場合は帳簿の総数を触らず、棚の情報だけを直します。
数を合わせるだけでなく、差が出た品目と棚番を残しておくと、どの区画が弱いかが年をまたいで見えるようになります。
棚卸を軽くする
棚卸が重くなる理由は、当日の人数ではなく、普段の在庫の持ち方にあります。手を入れる順に並べると次のようになります。
| やること | 効き方 |
|---|---|
| 棚番を振り、現品に表示を貼る | 探す時間が消える。いちばん効く |
| 同じ品番を1か所にまとめる | 数え漏れと二重カウントが減る |
| 在庫を持つ品目を減らす | 数える対象そのものが減る |
| 循環棚卸に切り替える | 1回あたりの負荷が小さくなる |
棚番の付け方はロケーション管理のやり方に書いています。棚卸が重い倉庫は、たいてい探す時間が長い倉庫です。数える速さより、場所が決まっていることのほうが効きます。
棚卸にかかる人と時間の見積り
棚卸の計画で最初に聞かれるのが「何人で何時間かかるか」です。品目数と棚の数から、おおよその見当は付けられます。
一般には、1人が1時間で数えられるのは50から120行とされる範囲に収まることが多く、差が出るのは次の3つです。
| 条件 | 速さへの影響 |
|---|---|
| 棚番が振ってあり、現品表示が読める | いちばん効く。探す時間がゼロに近づく |
| 1品番が1か所にまとまっている | 移動と二重カウントが減る |
| ケースとバラが混ざっていない | 数え直しが減る |
自社の実績を1回測っておくのがいちばん確実です。前回の棚卸で「何行を何人で何時間」だったかを記録に残しておけば、次からは人数の相談が数字でできます。
時間が足りないときに削る順番
人も時間も足りない、という前提で計画を立てることになります。削るなら、次の順で考えます。
- 金額の小さい品目は、数える精度を落とす(目視の概算にする)
- 動きの無い品目は、前回から動いていないことの確認だけにする
- 主力の品目と高額品は、必ず2人1組で数える
全品目を同じ精度で数えようとすると、いちばん大事な品目の精度が落ちます。品目を金額と動きで3つに分け、精度を変えるほうが、全体としては合うようになります。
棚卸の日程の決め方
棚卸の日程は、入出荷のいちばん少ない日に置きます。多くの倉庫では月初と月末に波があるため、そこを外します。
決めたあとに必要なのは、社内より社外への連絡です。
- 荷主・委託元に、入出荷を止める時間帯を事前に伝える
- 運送会社に、集荷の時刻をずらしてもらう
- 仕入先に、当日の納品を翌日に回してもらう
この連絡が抜けると、棚卸の最中にトラックが来ます。来てしまった場合は、荷物を「棚卸対象外」の置き場に固めて、受け入れの処理は翌日に回します。その場で棚に入れると、数えた棚に数が増えます。
棚卸が終わったあとにやること
棚卸は、数え終わった時点ではまだ半分です。終わったあとの3つを済ませて、ようやく1回分が完了します。
帳簿を現物に合わせる
差の原因を調べたうえで、帳簿の数を現物の数に書き換えます。原因が分からないまま合わせるときは、「原因不明」と書いて合わせます。空欄のまま数だけ直すと、翌年に見返したときに何も分かりません。
金額の処理(棚卸減耗として費用に落とすのか、別の扱いにするのか)は経理の領域になります。現場は数量と理由を正確に渡すところまでを受け持ちます。
出た差を、翌日からの作業に返す
差の多かった区画、品目、時間帯を、朝礼などで現場に戻します。「今年も差が出ました」で終わらせず、どの棚で何個ずれたかまで言うと、次の1年の意識が変わります。
次回に向けた記録を残す
次の3つを1枚にまとめておきます。次の棚卸の計画書が、そのまま去年の実績から作れるようになります。
| 残すもの | 使い道 |
|---|---|
| 行数・人数・所要時間 | 次回の人員の見積り |
| 区画ごとの差異の件数 | 弱い区画の特定 |
| 当日困ったこと | 準備の抜けをつぶす |
よくある質問
棚卸は法律で年に何回と決まっていますか
回数そのものを定めた規定ではありませんが、法人税法上、期末の棚卸資産の数量と評価額を確定させる必要があるため、決算期末の実地棚卸は実務上ほぼ必須とされています。頻度や方法の扱いは会社の経理方針と税務の判断によるため、顧問の税理士に確認してください。
循環棚卸だけで期末の一斉棚卸を省略できますか
省略している会社もありますが、そのためには、循環棚卸の範囲と精度が期末時点の在庫を説明できる水準にあることが前提になります。監査や税務の説明に耐えるかどうかは会社ごとの判断になるため、経理部門と先に相談するのが安全です。
数えている最中に出荷の依頼が入ったらどうしますか
原則は、棚卸が終わるまで出さない形にします。どうしても出す必要があるときは、出した数量と時刻を1枚の紙に書き、棚卸の集計に必ず反映させます。口頭で伝えると、ほぼ確実に抜けます。
棚卸表は紙とハンディのどちらが良いですか
品目数が少なく、棚の場所が固定されているならば、紙でも十分に回ります。品番が似ていて取り違えが多い倉庫では、バーコードを読む形にすると誤りが減ります。紙を続けるかどうかは、品目数と取り違えの多さで判断するのが良いです。
派遣やアルバイトの応援を入れるときの注意はありますか
当日だけ来る人には、品名ではなく棚番で仕事を渡します。「この棚からこの棚まで、書いてある品番と数を書き写す」という形にすると、品物を知らなくても数えられます。逆に「A品番を数えて」と頼むと、探す時間で終わります。
数える前に、単位の一覧(1ケース何本か)と、記入例を1枚渡しておきます。口頭の説明だけだと、書き方が人によって変わります。
在庫の少ない品目まで全部数える必要がありますか
期末の一斉棚卸では、原則として全品目が対象になります。ただし、日常の循環棚卸まで全品目を同じ頻度で回す必要はありません。動きの多い品目と高額な品目の頻度を上げ、動かない品目は年1回に落とすという配分にすると、同じ人数でも精度が上がります。
棚卸表はいつまで保管しますか
帳簿や書類の保存期間は税法などで定められており、棚卸表もその対象に含まれるとされています。年数は会社の区分によって変わるため、経理部門か税理士に確認したうえで、少なくとも次の棚卸と比べられる形で残しておきます。
まとめ
棚卸は、帳簿の数と現物の数を突き合わせて、帳簿を現実に合わせ直す作業です。数えることが目的ではないので、差が出たときにどこで生まれたかを残すところまでが1回の棚卸になります。
当日の混乱は、ほとんどが準備で決まります。締めの時刻、数える単位、数えない物の扱い、記入のしかた。この4つを紙にして配っておくだけで、数え直しの回数がはっきり減ります。
そして棚卸が重い倉庫は、たいてい探す時間が長い倉庫です。棚番を振って現品に表示を貼るところから始めると、翌年の棚卸がそのぶん軽くなります。