安全在庫とは?計算式と適正在庫との違い
目次
安全在庫は、「勘で決めている」「前任者から引き継いだ数のまま」という倉庫が多い数字です。実際、計算式を知らなくても現場は回りますが、欠品したときに数を増やし、余ったときに減らすという動かし方をしていると、在庫は少しずつ増えていきます。
この記事では、安全在庫を、役割、適正在庫や発注点との違い、計算式と安全係数、Excelでの出し方、決めたあとの見直し方の順に整理します。式は一般的に使われている形を示しますが、自社の品目に合うかどうかは、実際の出庫のばらつきを見て判断してください。
安全在庫とは何か
安全在庫は、需要とリードタイムのばらつきに備えて、上乗せして持っておく在庫のことです。「これを下回ったら危ない」という下限ではなく、通常の出荷で使う在庫の下に敷いておく土台と考えると分かりやすくなります。
在庫は、役割で2つに分けられます。
| 種類 | 役割 |
|---|---|
| 回転在庫 | 次の入荷までに、ふつうに出ていくぶん |
| 安全在庫 | 予想より多く出た、入荷が遅れた、に備えるぶん |
安全在庫は、平常時には減らない在庫です。毎月ここまで食い込んでいるなら、それは安全在庫ではなく、回転在庫が足りていない状態になります。
適正在庫・発注点との違い
言葉が似ていて混ざりやすいので、先に並べておきます。
| 言葉 | 意味 | 出し方 |
|---|---|---|
| 安全在庫 | ばらつきに備える上乗せぶん | 安全係数 × ばらつき × 期間の平方根 |
| 発注点 | この数まで減ったら発注する数 | 平均使用量 × リードタイム + 安全在庫 |
| 適正在庫 | 持っていてよい在庫の幅 | 安全在庫 + 次の入荷までに使うぶん |
現場で毎日使うのは発注点です。安全在庫そのものを見ながら発注するわけではなく、安全在庫を含んだ発注点まで減ったら発注する、という形で使います。
安全在庫の計算式
一般に使われているのは、次の式です。
安全在庫 = 安全係数 × 使用量の標準偏差 × √(発注リードタイム + 発注間隔)
3つの要素が、それぞれ次の意味を持ちます。
| 要素 | 意味 | どこから取るか |
|---|---|---|
| 安全係数 | どこまで欠品を許すか | 欠品許容率から表で引く |
| 標準偏差 | 出庫量のばらつきの大きさ | 過去の出庫実績から計算する |
| リードタイム・発注間隔 | 守りたい期間の長さ | 発注してから入るまでの日数と、発注の周期 |
安全係数は欠品許容率から決める
安全係数は、「100回のうち何回までなら欠品してよいか」を数字に置き換えたものです。正規分布を前提にした、よく使われる値は次のとおりです。
| 欠品許容率 | 安全係数 | 意味 |
|---|---|---|
| 10パーセント | 1.29 | 10回に1回は欠品してよい |
| 5パーセント | 1.65 | 20回に1回。実務でよく使われる |
| 1パーセント | 2.33 | 100回に1回。主力品・止められない品 |
| 0.1パーセント | 3.09 | ほぼ欠かせない品 |
全品目を1パーセントにすると、在庫が膨らみます。主力品は1パーセント、その他は5から10パーセント、というように品目で分けるのが実務的です。
実際に計算してみる
具体的な数字で追いかけます。ある品目の実績が次のようだったとします。
- 1日あたりの平均出庫量:20個
- 出庫量の標準偏差:6個
- 発注してから入荷するまで:5日
- 発注の周期:7日に1回
- 欠品許容率:5パーセント(安全係数1.65)
守る期間は、リードタイム5日と発注間隔7日を足した12日です。その平方根はおよそ3.46になります。
安全在庫 = 1.65 × 6 × 3.46 = 34.2 → 35個
発注点は、この安全在庫に、リードタイム中に使うぶんを足します。
発注点 = 20個 × 5日 + 35個 = 135個
在庫が135個まで減ったら発注する。現場が毎日見るのは、この135という数字だけです。
実際に使える様式が必要な方へ
品目ごとの発注点や在庫管理表を一から作ると手間がかかります。既成の様式でよければ、点検板の姉妹サイトである在庫板に無料のExcelがそろっています。
在庫板で様式をさがすExcelで出す
標準偏差は手では出せないので、表計算に任せます。過去の出庫実績を1日1行で並べ、次の関数を使います。
| やること | 関数 |
|---|---|
| 標準偏差 | =STDEV.P(出庫量の範囲) |
| 平均 | =AVERAGE(出庫量の範囲) |
| 平方根 | =SQRT(リードタイム+発注間隔) |
安全在庫のセルは、次の形になります。
=安全係数 * STDEV.P(出庫実績の範囲) * SQRT(リードタイム + 発注間隔)
どのくらいの期間の実績を使うか
直近3か月から1年が目安です。短すぎるとたまたまの波に引っ張られ、長すぎると去年の事情が混ざります。季節で大きく動く品目は、同じ季節の前年実績を別に見ておくと外しにくくなります。
計算が難しいときの近い出し方
標準偏差まで出すのが重いときは、次の簡単な形でも当たりは付けられます。
安全在庫 = (1日の最大出庫量 - 1日の平均出庫量)× リードタイム
この式は、正式な式より大きめの数になりやすいです。まずこれで置いて、在庫が余るようなら標準偏差を使った式に切り替える、という進め方でも十分に回ります。
決めたあとの見直し方
安全在庫は、一度決めて終わりにはできません。出庫の傾向が変わると、適切な数も変わります。
見直す機会は、次の3つです。
| きっかけ | やること |
|---|---|
| 欠品が起きた | 原因を分ける。ばらつきなら係数を上げる |
| 在庫が余っている | 標準偏差を計算し直す。過去の数字が古い |
| 仕入先やルートが変わった | リードタイムを測り直す |
欠品したら、まず原因を分ける
欠品したからといって、すぐに安全在庫を増やすのは早い判断です。原因が「予想より出た」なのか「入荷が遅れた」なのかで、直す場所が違います。
- 予想より出た → 標準偏差か安全係数を見直す
- 入荷が遅れた → リードタイムの日数を実測し直す
- 発注を忘れた → 安全在庫ではなく、発注のしくみの問題
発注忘れを安全在庫で埋めようとすると、在庫だけが増えます。ここは分けて考えます。
安全在庫が向かない品目もある
この式は、出庫量が正規分布に近いことを前提にしています。次のような品目では、そのまま当てはめると外れます。
| 品目 | なぜ外れるか | どうするか |
|---|---|---|
| 出庫が月に数回しかない | ばらつきの計算ができない | 発注のタイミングを日程で決める |
| 特定の日にまとめて出る | 平均に意味が無い | 受注情報から必要数を積む |
| 期限が短い | 持つほど廃棄になる | 安全在庫を薄くして、入荷の頻度を上げる |
| 受注生産・特注 | そもそも在庫を持たない | 在庫ではなくリードタイムで守る |
式が合わない品目に無理に式を当てるより、「この品目は日程で守る」と決めるほうが安全です。期限のある品物の扱いは先入れ先出しのやり方にまとめています。
品目を分けて手間を配分する
全品目の安全在庫を毎月計算し直すのは、現実には続きません。動きと金額で品目を分け、力の入れどころを変えます。
| 区分 | 目安 | 安全在庫の扱い |
|---|---|---|
| 主力(動きが多い・金額が大きい) | 全品目の1割から2割 | 毎月見直す。係数を高めに |
| 中位 | 3割前後 | 半年に1回見直す |
| その他(動かない・金額が小さい) | 残り | 年1回。多めに持って手間を省く |
動かない品目に細かい計算をしても、下がる在庫はわずかです。そのぶんの時間を主力品に使うほうが、全体の在庫は減ります。品目の分け方は、棚卸の頻度を決めるときにもそのまま使えます。
発注のやり方で安全在庫は変わる
同じ品目でも、どう発注しているかで必要な安全在庫の量が変わります。発注のしかたは、大きく2つに分かれます。
| やり方 | 中身 | 安全在庫への効き方 |
|---|---|---|
| 定量発注 | 発注点まで減ったら、決まった量を発注する | 守る期間はリードタイムだけ。安全在庫は小さくて済む |
| 定期発注 | 毎週月曜など、決まった日に必要量を発注する | 守る期間にリードタイム+発注間隔が要る。安全在庫は大きくなる |
前の節の式で、発注間隔を足していたのはこのためです。毎日発注できる品目なら、守る期間はリードタイムだけになり、必要な安全在庫はぐっと小さくなります。
発注の回数を増やすと在庫は減る
在庫を減らす手として、安全在庫を削る前に発注の頻度を上げられないかを見ます。週1回の発注を週2回にできれば、守る期間が短くなり、同じ欠品確率のまま在庫が下がります。
もちろん、発注1回ごとに手間と送料がかかります。1回あたりの費用と、減る在庫の保管費用を並べて決めます。仕入先が近く、小口の追加に応じてくれる品目ほど、この手が効きます。
費用を並べて決める
安全在庫の議論は「多いほうが安心」で終わりがちですが、数字を並べると判断できるようになります。
比べるのは次の2つです。
- 持ち続ける費用:保管スペース、資金、期限切れの廃棄、傷むリスク
- 欠品したときの損失:急ぎの手配費、出荷の遅れ、相手先からの評価
「欠品1回あたり、いくらの損になるか」を一度だけ見積もっておくと、係数の話が具体的になります。金額が大きい品目は係数を上げ、代替品が効く品目は下げる。全品目に同じ係数を当てるより、はるかに少ない在庫で同じ安心が買えます。
保管費用は見えにくい
在庫を持つ費用は、請求書として1枚で届くわけではありません。自社倉庫なら家賃と人件費に紛れ、委託倉庫なら保管料に含まれます。保管料の計算のしくみを知っておくと、在庫を減らしたときに実際に下がる金額が見えます。委託倉庫の料金のしくみは倉庫の保管料と3期制にまとめています。
現場に渡すときの形
計算した安全在庫を、そのまま現場に渡しても使われません。現場が見るのは1つの数字だけで済む形にします。
| 渡し方 | 現場の動き |
|---|---|
| 発注点を棚のラベルに書く | 残りがそこまで減ったら報告する |
| 発注点のところに札を挟む | 札が出てきたら発注する |
| 在庫表に発注点の列を作る | 実数と並べて見られる |
棚に「ここまで減ったら知らせる」の線を物理的に引くやり方は、計算式を知らない人でも使えます。段ボールの積み方が決まっている棚なら、その段数で示すこともできます。
安全在庫は、計算そのものより現場が毎日見る形にできたかどうかで効き方が変わります。表計算の中だけにある数字は、誰も見ません。
安全在庫と棚卸は同じ土台に乗っている
ここまでの計算は、帳簿の在庫数が現物と合っていることを前提にしています。帳簿が10個ずれていれば、発注点も10個ずれた場所で鳴ります。
安全在庫を計算する前に、次の2つを確かめておきます。
- 直近の棚卸で、その品目に差が出ていないか(棚卸差異の原因と対策)
- 出庫の記録が、その日のうちに入っているか
在庫の数字が信用できない状態で安全在庫を計算すると、ばらつきの中に記録の遅れが混ざります。標準偏差が実際より大きく出て、必要のない在庫を積むことになります。
計算式の精度を上げるより、記録を当日中に入れるほうが先です。順番を逆にすると、いくら式を精密にしても数字が合いません。
よくある質問
安全在庫はどのくらい持つのが普通ですか
品目と業種で幅が大きいため、他社の水準はあまり参考になりません。自社の出庫のばらつきから計算した数が出発点になります。計算した数と、いま持っている数を並べてみると、どちらに寄っているかが分かります。
安全係数を大きくすれば欠品は無くなりますか
理論上は欠品の確率が下がりますが、係数を上げたぶんだけ在庫と保管の費用が増えます。欠品したときの損失と、持ち続ける費用を並べて、品目ごとに決めるのが実務的です。止まると生産や出荷が止まる品目だけ高くする、という配分がよく使われます。
標準偏差は何を対象に計算しますか
1日あたり、または1週あたりの出庫量を並べて計算します。入庫や在庫残高ではありません。休業日を含めるかどうかで数字が変わるため、稼働日だけで並べるほうが実態に近くなります。
リードタイムは仕入先の言う日数でよいですか
言われた日数と、実際に届いた日数は違うことがあります。過去の発注日と入荷日を並べて、実績の平均と最大を出すのが確実です。リードタイム自体がばらつく品目では、その最大に寄せて安全在庫を置きます。
複数の倉庫に在庫を分けている場合はどう計算しますか
倉庫ごとに出庫のばらつきを見て、それぞれで計算するのが基本です。在庫を分けるほど、全体で必要な安全在庫は増えます。1か所にまとめれば、片方の多い日ともう片方の少ない日が打ち消し合うためです。拠点を増やすかどうかの判断では、輸送の速さと引き換えに在庫が増える、という形で見ます。
季節でまったく出方が変わる品目はどうしますか
年間の実績をまとめて計算すると、繁忙期には足りず、閑散期には余ります。季節ごとに区切って標準偏差を出し、安全在庫も季節で切り替えるほうが実態に合います。切り替えの日を先に決めてカレンダーに入れておくと、忘れずに回せます。
在庫を減らせと言われています。どこから減らせますか
安全在庫から削ると欠品が出やすくなります。先に見るのは、動いていない在庫です。半年以上出ていない品目を洗い出すほうが、欠品のリスク無しに在庫が下がります。そのうえで、主力品の標準偏差を計算し直すと、持ちすぎている品目が見つかります。
発注の担当者が複数いて数字がそろいません
安全在庫と発注点を、人ではなく品目に持たせると揃います。担当者ごとの判断に任せると、同じ品目でも人によって発注のタイミングが変わります。品目の一覧に発注点の列を作り、誰が見ても同じ数字になる形にしておきます。
まとめ
安全在庫は、需要とリードタイムのばらつきに備えて上乗せする在庫です。平常時には減らない土台で、毎月そこまで食い込んでいるなら、回転在庫のほうが足りていません。
計算式は、安全係数 × 出庫量の標準偏差 × 守る期間の平方根です。安全係数は欠品をどこまで許すかで決まり、5パーセントなら1.65が使われます。現場が毎日見るのは安全在庫そのものではなく、それを含んだ発注点の数字です。
決めたあとは、欠品したときに原因を分けるところが要点になります。予想より出たのか、入荷が遅れたのか、発注を忘れたのか。この3つは、直す場所がそれぞれ違います。