在庫のABC分析|品目を分けて手間を配る
目次
在庫の管理でいちばん多い失敗は、全品目を同じ濃さで管理しようとすることです。品目が数百を超えると、全部を毎月見直すのは物理的に無理になります。無理をすると、いちばん大事な品目の管理まで薄くなります。ABC分析は、品目を分けて、手間の配り方を変えるための道具です。
この記事では、ABC分析を、考え方、作り方、区分ごとの扱い、置き場所への使い方、やりすぎないための線の順に整理します。分け方の基準は扱う品物で変わるため、自社の数字に置き換えて読んでください。
ABC分析とは何か
ABC分析は、品目を金額や出荷回数の大きい順に並べて、上位からA・B・Cに分けるやり方です。上位の少数の品目が、全体の大部分を占めるという傾向を使います。
倉庫では、こういう形で現れます。全品目の2割が、出荷回数の7割を占める。全品目の1割が、在庫金額の6割を占める。この偏りがあるから、全部を同じように扱う必要が無くなります。
分ける基準は1つではありません。出荷回数で分ければ「よく取りに行く品目」が見え、在庫金額で分ければ「お金が寝ている品目」が見えます。何を良くしたいかで、基準を選びます。歩く距離を減らしたいなら出荷回数、在庫を減らしたいなら金額です。
作り方
特別な道具は要りません。表計算で15分ほどで作れます。
まず、集計する期間を決めます。3か月から1年が扱いやすい範囲です。次に、品目ごとの合計を出します。出荷回数で分けるなら出庫の行数、金額で分けるなら数量×単価です。出したら大きい順に並べ替えます。
そのあと、累計の比率を出します。上から順に足していって、全体の何パーセントに達したかを計算します。累計70パーセントまでをA、90パーセントまでをB、残りをCとするのが、よく使われる区切りです。この線は自社で変えて構いません。品目数が少なければ、もっと粗い区切りでも足ります。
集計の元になるのは、入出庫の記録です。記録が日付と品番で残っていれば、そのまま集計できます。記録の付け方は入出庫管理のやり方にまとめています。
実際に作ってみる
数字で追いかけます。品目が200ある倉庫で、直近6か月の出庫の行数を集計したとします。
上から並べると、最初の30品目で出庫行数の70パーセントに達しました。次の50品目を足すと90パーセントになり、残りの120品目で残りの10パーセントです。この場合、A=30品目、B=50品目、C=120品目になります。
ここから分かるのは、120品目は年に数回しか取りに行かないということです。その120品目が取りやすい場所を占めていたら、毎日の作業が遠回りになります。逆に、30品目を入口の近くにまとめれば、1日のピッキングのかなりの部分が短い距離で終わります。
この計算は、頭で考えても出てきません。実際に並べると、思っていた品目と違うものが上位に来ることがよくあります。担当者の印象と、実際の行数はずれるためです。
金額でも作ってみる
同じ品目を、今度は在庫金額で並べ替えます。出荷回数で上位だった品目が、金額では下位に来ることがあります。この2つのずれが、手当ての違いになります。よく出るが安い品目は多めに持てばよく、めったに出ないが高い品目は持ち方を見直すことになります。
誰が作って、誰が使うか
集計そのものは事務作業なので、在庫の数字を持っている人が作ります。使うのは現場です。作った一覧を事務所に置いたままにすると、置き場所も棚卸の頻度も変わりません。
現場に渡すときは、区分そのものではなく、やることの形にして渡します。「この20品目を、入口側の棚に移してください」「この品目は毎月数えてください」という形です。AとかCという記号だけを渡しても、何をすればよいか伝わりません。
区分を在庫管理表の列に持っておくと、並べ替えで必要な品目だけを抜き出せます。棚卸表を作るとき、置き場所を見直すとき、発注点を見直すときに、同じ列が使えます。在庫管理表の作り方は在庫管理表の作り方にまとめています。
半年に1回、見直す日を決める
作りっぱなしにすると、実態とずれていきます。半年に1回、集計をやり直す日を決めます。棚卸や期末と同じ時期にまとめると、忘れにくくなります。やり直したら、区分が変わった品目だけを一覧にして、棚の移動と頻度の変更を行います。
区分ごとに扱いを変える
分けただけでは何も起きません。区分ごとに、何をどう変えるかを決めます。
Aの品目は、欠品が出ると業務が止まるものです。安全在庫を計算で出し、発注点を設定し、毎月見直します。棚卸は月に1回回します。置き場所は、入口に近く、腰から目の高さにします。Bの品目は、半年に1回の見直しで足ります。棚卸は3か月に1回。Cの品目は、年1回の見直しと棚卸で回します。多めに持って手間を省くという判断も、この区分なら成り立ちます。
Cの品目に細かい計算をしても、下がる在庫はわずかです。そのぶんの時間をAに使うほうが、全体の在庫は減ります。これがABC分析の使いどころになります。安全在庫の出し方は安全在庫の計算にまとめています。
棚卸の頻度に使う
循環棚卸を回すときの順番も、この区分をそのまま使えます。Aは月1回、Bは3か月に1回、Cは年1回。品目を分ける作業を1回やれば、在庫・棚卸・置き場所の3つに同じ区分が使えます。循環棚卸の回し方は循環棚卸のやり方にまとめています。
発注の頻度にも使う
区分は、発注のしかたにも効きます。Aの品目は発注点を決めて、減ったら発注する形にします。Bは決まった日にまとめて発注する形で足ります。Cは年に1回か2回、使う見込みを見て発注します。
Aを定量発注にすると、守る期間がリードタイムだけになり、必要な在庫が小さくなります。逆にCを毎週見に行っても、動きが無いので判断することがありません。発注の手間も、区分に合わせて配ります。
仕入先が同じ品目をまとめて発注する場合は、区分をまたいで同じ日に出すことになります。その場合も、Aの品目だけは発注点を別に見ておくと、まとめ発注の谷間で欠品することを防げます。発注の方式については安全在庫の計算にまとめています。
置き場所に使う
出荷回数で分けたABCは、置き場所の見直しにそのまま効きます。
Aの品目を、入口に近く、手が届きやすい高さに移します。Bはその周り、Cは奥や上の段に置きます。ピッキングの時間の大半は歩いている時間なので、よく取りに行く品目が近くにあるだけで、1日の処理数が変わります。
見直しは3か月に1回で足ります。全品目を並べ替える必要はなく、上位20品目が取りやすい場所にあるかだけを確かめます。季節で動きが変わる商材は、シーズンの前に入れ替えます。棚番の付け方はロケーション管理のやり方にまとめています。
重さも一緒に見る
出荷回数だけで決めると、重い品目が上の段に行くことがあります。回数と重さの2つで場所を決めます。重い品目は、回数が多くても下の段です。腰への負担と、落下の危険の両方が減ります。
2つの軸で分ける
出荷回数と在庫金額の2つで分けると、手当ての種類が見えてきます。
出荷回数が多くて金額も大きい品目は、管理の中心です。安全在庫を細かく見て、欠品も過剰も防ぎます。出荷回数は多いが金額が小さい品目は、多めに持って手間を省くほうが合理的です。回数が少ないのに金額が大きい品目が、いちばん危ない区分になります。ここに不動在庫の予備軍が集まります。回数も金額も小さい品目は、まとめて扱って構いません。
この4つの区分で並べると、「在庫を減らせ」と言われたときに見る場所がはっきりします。減らすのは、回数が少なくて金額の大きい区分からです。よく出る品目を削ると欠品が出ます。不動在庫の見つけ方は不動在庫の見つけ方にまとめています。
分けたあとに起きる変化
区分を使い始めると、日々の判断が軽くなります。「この品目、発注していいですか」と聞かれたときに、Aなら発注点を見て即答でき、Cなら年1回の見直しに回せます。判断のたびに一から考えなくて済むのが、いちばん大きな効果です。
新しく入った人への説明も短くなります。「入口側の棚がよく出る品目です」「奥の棚は年に数回です」と言えば、倉庫の地図が頭に入ります。棚番と区分が対応していれば、探す時間も減ります。
一方で、区分に頼りすぎると見落としが出ます。Cに入った品目でも、止まると業務が止まるものがあります。「出荷回数は少ないが、欠品すると困る」品目は、区分とは別に印を付けておきます。機械の予備部品や、法令で備えておくものがこれに当たります。
数字が偏らない倉庫もある
すべての倉庫で上位2割が7割を占めるわけではありません。品目ごとの出荷が平らな倉庫もあります。その場合、ABCに分けても扱いを変える理由が出てきません。
まず並べてみて、偏りがあるかどうかを見ます。累計のグラフを描いて、急に立ち上がる形なら偏りがあります。なだらかな直線に近ければ、この道具は効きません。その場合は、金額や期限といった別の軸で分けるほうが役に立ちます。
偏りが無いこと自体は問題ではありません。分けても効果が出ないと分かったら、そこに時間を使わないのが正しい判断になります。
やりすぎない
ABC分析は、作り込むと目的から外れていきます。区分を5段階、7段階と細かくしても、扱いを変えられるのは実際には2つか3つです。扱いを変えられる数だけ区分を作るのが正しい粒度になります。
集計の期間も、毎月やり直す必要はありません。3か月から半年に1回で足ります。毎月やり直すと、区分が頻繁に入れ替わって、置き場所の移動が追いつきません。区分が変わったら棚を移すという運用にしておくと、頻度は自然に決まります。
そして、区分は目的ではありません。Aに入った品目の欠品が減ったか、Cの在庫金額が下がったか。効果が出ていなければ、分け方ではなく手当てのほうを見直します。
よくある質問
品目数が少なくてもやる意味はありますか
50品目を下回るなら、全部を同じ濃さで見ても回ります。100を超えたあたりから、分ける効果が出てきます。ただし、品目数が少なくても、金額の偏りが大きい場合は分ける価値があります。1品目で在庫金額の半分を占めているなら、そこだけ別扱いにします。
新しく扱い始めた品目はどこに入れますか
実績が無いので、集計では下位に出ます。当面はAに準じた扱いにして、実績が溜まってから区分を決めるのが安全です。新商品が欠品すると、立ち上がりの機会を逃します。半年ほど様子を見てから、実際の区分に落とします。
季節商品はどう扱いますか
年間で集計すると、動きが平らに見えて実態と合いません。シーズンだけを切り出して集計するか、季節品を別の区分として分けます。シーズン中はA、シーズン外はCという扱いにして、切り替えの日をカレンダーに入れておきます。
出荷回数と出荷数量のどちらで分けますか
作業の手間を減らしたいなら回数です。1回の出荷が1個でも100個でも、取りに行く手間はそれほど変わりません。在庫の量を減らしたいなら数量や金額で分けます。目的によって基準を選び、両方を作って見比べても構いません。
区分が変わったら棚も移しますか
移すことで効果が出るので、移します。ただし、毎月入れ替えると移動そのものが手間になります。3か月から半年に1回、上位だけを入れ替える形にすると、労力と効果が釣り合います。移動の記録を残すことも忘れないようにします。
分析した結果を経営に報告するには
区分そのものではなく、変わった数字を報告します。「Aの品目の欠品が月8件から2件に減った」「Cの在庫金額を120万円減らした」「ピッキング1件あたりの時間が20秒縮んだ」という形です。分け方の説明は前置きにして、効果を先に出します。
数字が出ていない段階では、手当ての予定を出します。上位30品目を入口側へ移す、Cの120品目の棚卸を年1回に落とす、といった内容です。実行したあとで、もう一度測って比べます。
社内に在庫の単価データがありません
出荷回数だけで分けても、置き場所と棚卸の頻度は決められます。金額が要るのは、在庫を減らす判断のときです。単価が分からない品目は、仕入先の見積りや直近の発注書から拾えます。全品目をそろえる必要はなく、上位30品目だけ分かれば判断できます。
区分の線は何パーセントにすべきですか
累計70パーセントと90パーセントがよく使われますが、決まりではありません。自社の品目数と、扱いを変えられる数で決めます。Aが100品目になると毎月見直せないので、Aが20から30品目に収まる線に引き直す、という決め方でも構いません。
在庫管理のシステムに区分の機能がありません
表計算の列で持てば足ります。在庫管理表に「区分」の列を1つ足して、A・B・Cを入れるだけです。システム側に機能が無くても、並べ替えと絞り込みができれば運用できます。棚卸表を出すとき、置き場所を見直すとき、発注点を見直すときに、その列で絞ります。
分析のあと、何も変わりませんでした
区分を作っただけで止まっている状態です。ABC分析は分けることが目的ではないので、分けたあとに「置き場所」「棚卸の頻度」「安全在庫」のどれか1つを実際に変えるところまでを1回の作業にします。3つ全部でなくて構いません。上位20品目を取りやすい場所へ移すだけでも、翌週から作業の時間が変わります。
まとめ
ABC分析は、品目を大きい順に並べて区分に分け、手間の配り方を変えるための道具です。全品目を同じ濃さで管理しようとすると、いちばん大事な品目の管理まで薄くなります。
作り方は、期間を決めて品目ごとに集計し、大きい順に並べて累計の比率で線を引くだけです。表計算で15分ほどで作れます。基準は、歩く距離を減らしたいなら出荷回数、在庫を減らしたいなら金額を使います。
そして、分けたあとに扱いを変えるところまでが1組です。安全在庫の見直し、棚卸の頻度、置き場所。同じ区分を3つに使えるので、1回作れば長く効きます。