不動在庫の見つけ方|滞留在庫を減らす手順
目次
不動在庫は、倉庫の場所とお金を静かに食い続けます。毎月の請求書に「不動在庫の保管料」という行が立つわけではないので、気づきにくいのが厄介なところです。在庫を減らせと言われたときに最初に見るべきは、安全在庫ではなく、ここです。
この記事では、不動在庫を、言葉の整理、見つけ方、溜まる理由、処分の選び方、溜めないための手当ての順に整理します。処分の判断には会計や税務が関わるため、金額の処理は経理部門か顧問の税理士に確認してください。
不動在庫とは何か
不動在庫は、一定の期間、まったく動いていない在庫のことです。似た言葉に滞留在庫やデッドストックがあり、現場では混ざって使われています。厳密な線引きは会社ごとに決めるもので、法令で定義されているものではありません。
実務では、次のように分けておくと話が通りやすくなります。滞留在庫は「動きが鈍っているが、まだ出る見込みのあるもの」、不動在庫は「一定期間まったく動いていないもの」、デッドストックは「もう出る見込みが無いもの」。大事なのは言葉ではなく、自社で何か月を線にするかを決めることです。
線は、扱う品物の回転で決めます。毎日出る消耗品なら3か月動いていない時点で異常ですが、年に数回しか出ない補修部品なら1年でも正常かもしれません。品目の性格ごとに線を分けるほうが、実態に合います。
見つけ方は1列で足りる
不動在庫を洗い出すのに、特別な仕組みは要りません。在庫管理表に最終出庫日の列が1つあれば見つかります。
出庫の記録から、品番ごとに最後に出た日を取って並べ替えます。表計算なら、出庫の一覧を品番で集計して最大の日付を取るだけです。今日からの日数を計算して、180日、365日といった線で色を付けます。この作業は30分ほどで終わり、そのあと毎月は数分で更新できます。
出てきた一覧を、棚番の順に並べ替えると使い勝手が上がります。どの通路が塞がっているかが見えて、現物を見に行くときも1回で回れます。入出庫の記録の付け方は入出庫管理のやり方にまとめています。
金額も一緒に出す
数量だけだと、優先順位が付きません。単価が分かるなら、数量×単価で金額を出して、大きい順に並べます。同じ「1年動いていない」でも、10万円のものと500円のものでは、判断の重さが違います。上位20品目で全体の金額の大半を占めることが多いので、そこから手を付けます。
なぜ溜まるのか
不動在庫は、誰かがミスをしたから溜まるわけではありません。日々の判断が少しずつ積み上がった結果です。
多いのは、まとめて買ったほうが単価が安いという理由で、必要量より多く発注した形です。単価は下がりますが、使い切れなければ差額以上の保管料と場所を払うことになります。次に多いのが、仕様の変更です。部品や包材が新しくなり、旧版が残ります。返品や交換で戻ってきたものが、そのまま棚に残る形もよくあります。
そして、捨てる判断を誰もしないという理由があります。捨てれば損失が確定しますが、置いておけば「いつか使うかもしれない」で先送りできます。判断する人と時期を決めておかないと、この先送りが何年も続きます。
処分の選び方
処分と言っても、捨てるだけではありません。お金に近い順から検討します。
まず、社内で使えないかを見ます。別の現場や別の用途で使えるなら、買わずに済むぶんが浮きます。次に、値引きして販売できないかを見ます。仕入先や同業に引き取ってもらえることもあります。仕様変更で残ったものは、仕入先に返品や引き取りを相談できる場合があります。買ってから時間が経っていても、事情を説明すると応じてもらえることがあります。
どれも難しければ、廃棄になります。廃棄は費用がかかり、損失も確定しますが、場所と管理の手間が戻ってきます。1年で何度も数えている、探すときに邪魔になっている、という状態なら、持ち続ける費用のほうが大きいこともあります。
決める場を作る
不動在庫が減らない倉庫の共通点は、判断する場が無いことです。現場は勝手に捨てられず、経理は現物を見ていません。誰も決めないまま棚に残ります。
年に1回か、半期に1回、一覧を出して決める日を作ります。出席するのは、在庫を持っている部署と、現場と、金額を見る人です。一覧の上位20品目だけを、その場で「使う・売る・返す・捨てる」の4つに振り分けます。全品目をやろうとすると終わらないので、金額の大きい順に区切ります。
決めたら、期限を付けます。「3か月以内に社内で使えなければ廃棄」という形にしておかないと、「使うかもしれない」のまま翌年も同じ一覧に載ります。期限の無い保留は、実質的に何も決めていないのと同じです。
廃棄するときの手順
廃棄は、現物を出して終わりではありません。記録と数字がついて回ります。
現物は、まず廃棄予定の置き場に移します。棚に残したまま「廃棄予定」の札を貼ると、出荷のときに間違って出ることがあります。移したうえで、品番・数量・理由・決めた人・予定日を一覧に残します。
実際に処分したら、在庫から数を引きます。この記録漏れが、棚卸の差異としてあとから出てきます。産業廃棄物として処理する場合は、マニフェストなど処理の記録も別に残ります。扱う物によって手続きが変わるため、処理業者と自治体の案内で確認してください。
金額の処理(評価損として計上するか、廃棄損とするかなど)は会社の経理方針と税務の判断になります。現場は、品番・数量・理由・日付を正確に渡すところまでを受け持ちます。廃棄の進め方は在庫の廃棄と記録にまとめています。
溜めないための手当て
処分は後始末なので、同じことを繰り返さない手当てが要ります。効き方の大きい順に並べます。
いちばん効くのは、発注の量を見直すことです。まとめ買いの割引と、使い切るまでの期間を並べて見ます。1年で使い切れない量を買っているなら、単価が安くても割に合いません。次に、安全在庫を計算で出すことです。勘で多めに持っていると、動きの鈍い品目ほど積み上がります。計算のしかたは安全在庫の計算にまとめています。
そして、仕様変更のときに旧版の在庫を確認する手順を入れます。新しい仕様に切り替える会議で、旧版の在庫数と使い切る計画を必ず1行入れる。これだけで、切り替えのたびに発生する不動在庫が減ります。
月1回、増えた品目だけ見る
年1回の棚卸のときだけ見ていると、1年ぶんが一度に出てきます。毎月、新しく180日を超えた品目だけを一覧にすると、数品目ずつの対応で済みます。増分だけを見る形にすると、作業が軽くなって続きます。
一覧に持つ列
不動在庫の一覧は、判断するための紙です。決めるのに要る情報だけを載せます。
品番と品名、棚番、在庫数、最終出庫日、経過日数、単価と金額。ここまでが機械的に出せる部分です。そのうえに、人が書く列を3つ足します。「なぜ残っているか」「どうするか」「いつまでに」です。この3列が空のまま配られる一覧は、見て終わりになります。
経過日数は、日付そのものより判断しやすくなります。「2025年3月12日」と書かれるより「最終出庫から554日」と書かれたほうが、重さが伝わります。表計算なら今日の日付から引くだけで出せます。
現物の写真があると早い
金額の大きい品目だけでも、写真を1枚添えると判断が早くなります。品名だけでは、現物を見ていない人には想像がつきません。包装が傷んでいるか、まだ使える状態かで、売るか捨てるかの答えが変わります。
増えていないかを毎月見る
不動在庫は、減らす活動と同じくらい、増やさない活動が要ります。毎月、新しく線を超えた品目の数と金額を記録します。
この数字が毎月同じくらい出ているなら、発注か仕様変更のどこかに原因が続いています。特定の仕入先や特定の担当に偏っているなら、その発注のしかたを見ます。季節性のある品目が毎年同じ時期に残るなら、発注の量そのものが合っていません。
月の増加額を1年並べると、どの月に何が起きたかが見えます。キャンペーンの残り、仕様変更、想定より売れなかった商品。原因が分かれば、次の年は事前に手を打てます。
場所が空くと何が起きるか
不動在庫を処分すると、数字に出にくい効果が返ってきます。
棚が空けば、動きの多い品目を取りやすい場所に移せます。ピッキングの歩行距離が縮み、1日あたりの処理数が上がります。棚卸の対象が減り、数える行数と時間が減ります。通路に置かれていた仮置きが棚に戻せて、転倒の危険も下がります。委託倉庫なら、保管料そのものが下がります。
「置いているだけなら費用はかからない」は誤解です。3期制の保管料では、動かない在庫にも毎期の積数がかかり続けます。しくみは倉庫の保管料と3期制にまとめています。
現場から声を上げる形にする
不動在庫にいちばん早く気づくのは、毎日棚を見ている人です。埃をかぶっている、包装が日に焼けている、去年から動いていない。この気づきを拾う口を作っておくと、一覧が出るのを待たずに手が打てます。
紙を1枚、倉庫に置いておくだけで足ります。品番と棚番と「いつから動いていないように見えるか」の3列で十分です。集まったものを、月に1回まとめて一覧と突き合わせます。記録上は動いているのに現物が動いていないように見える品目は、同じ品番が別の棚にもあることが多く、そこから場所違いが見つかることもあります。
声を上げた結果、何かが動いたことを見せるのも大事です。1件でも処分まで進んだら、その結果を現場に戻します。何も起きないと分かると、次から誰も書きません。
委託倉庫に預けている場合
自社の倉庫ではなく、営業倉庫に預けている場合も考え方は同じです。むしろ、動かない在庫の費用が請求書という形ではっきり見えるぶん、判断しやすくなります。
倉庫会社から在庫の一覧をもらい、最終出庫日を出してもらいます。3期制の保管料なら、動かない在庫にも毎期の積数がかかっているので、その品目だけの保管料を概算できます。「この品目を置き続けるのに、年間いくら払っているか」が出ると、処分の判断が数字でできます。
処分のときは、倉庫会社にも段取りが要ります。引き取りに来てもらうのか、廃棄まで頼めるのか、費用はいくらか。契約の範囲外の作業になることもあるので、先に問い合わせてから日程を決めます。
よくある質問
何か月動かなければ不動在庫ですか
法令や会計基準で一律に決まっているものではありません。自社で線を決めます。回転の速い商材なら3か月、部品や補修材なら1年、というように品目の性格で分けるのが実務的です。決めた線は文書にして、毎年同じ基準で一覧を出せるようにします。
捨てると損失が出るので、置いておくほうが得ではありませんか
置いておく費用(保管料、場所、数える手間、傷むリスク)と、捨てる費用を並べて比べます。多くの場合、1年以上動いていない品目は、持ち続けるほうが高くつきます。ただし、金額の処理と税務の扱いは会社の方針によるため、経理部門か顧問の税理士に確認してください。
仕入先に返品を相談してもよいですか
相談すること自体は問題ありません。時間が経っていても、事情によっては引き取りや値引きに応じてもらえることがあります。特に、仕様変更で使えなくなったものは、仕入先側にも事情が分かっています。断られても関係が悪くなる類の話ではないので、一覧ができた段階で1本連絡してみる価値はあります。
補修部品のように、めったに出ないが必要な在庫はどう扱いますか
不動在庫と同じ扱いにすると、必要なものまで捨ててしまいます。「めったに出ないが持つと決めた品目」を別の区分にして、一覧から除外します。除外の理由と、見直す時期を書いておきます。理由を書かずに除外すると、数年後に誰も判断できなくなります。
一覧を出しても誰も決めてくれません
決める場と期限が無いことがほとんどです。金額の大きい順に20品目だけに絞り、「使う・売る・返す・捨てる」の4択にして、その場で決めてもらう形にすると進みます。判断の材料として、持ち続けた場合の保管料の見込みを添えると話が早くなります。
廃棄の記録は何年残しますか
税務や契約で保存の条件が定められている場合は、そちらが優先されます。実務では、棚卸の差異を説明するために、少なくとも次の棚卸までは必ず残します。処分した日付・品番・数量・理由・決めた人が残っていれば、あとから説明できます。
在庫を減らすように言われましたが、どこから手を付けますか
安全在庫を削る前に、動いていない在庫から見ます。半年以上出ていない品目を金額の大きい順に並べるだけで、欠品のリスクを増やさずに減らせる候補が出てきます。安全在庫を削ると、欠品と急ぎの手配が増えて、結果として費用が上がることがあります。順番を間違えないことが要点です。
一覧に載った品目を、現場が勝手に捨ててしまいました
決める場が無いと、こういう形も起きます。捨てる前に1行書く、という手順を先に作ります。品番・数量・理由・日付だけで足ります。記録が無いまま現物が消えると、棚卸のときに原因不明の差として出てきます。処分の権限と金額の線も、あわせて決めておきます。
一覧を作る時間が取れません
最初の1回だけ30分取れば、あとは毎月数分で更新できます。在庫管理表に最終出庫日の列を1つ足すだけなので、表計算の関数を1本入れる作業になります。時間が取れない場合は、金額の大きい上位20品目だけを手で拾う形でも始められます。全品目を対象にしようとして着手が遅れるより、20品目で始めるほうが先に進みます。
まとめ
不動在庫は、在庫管理表に最終出庫日の列を1つ足すだけで見つかります。金額を掛けて大きい順に並べれば、手を付ける順番もそのまま決まります。
減らないのは、判断する場と期限が無いからです。半期に1回、上位20品目を「使う・売る・返す・捨てる」の4つに振り分けて、期限を付けます。期限の無い保留は、何も決めていないのと同じです。
そして、処分だけで終わらせないことです。発注量の見直し、安全在庫の計算、仕様変更のときの旧版の確認。この3つが入っていないと、同じ一覧が翌年も出てきます。