倉庫の暑さ対策|熱中症を防ぐ体制と手順
目次
倉庫は、屋根があっても夏はかなりの温度になります。鉄骨の建物は日射で暖まり、風が通らない場所では外より暑くなることもあります。荷役の作業は体を動かし続けるので、体温が上がりやすいという条件も重なります。
この記事では、倉庫の暑さ対策を、2025年からの決まり、体制の作り方、現場でできる手当て、気づき方、続けるための形の順に整理します。適用される範囲や必要な措置は作業の環境で変わります。最終的には所轄の労働基準監督署にご確認ください。
2025年からの決まり
労働安全衛生規則の改正により、2025年6月から、熱中症のおそれのある作業について、事業者に体制の整備などが求められています。
求められている内容は、大きく3つとされています。具合が悪くなった人を見つけたときの報告の体制、作業からの離脱と身体の冷却、医療機関への搬送といった対応の手順、そしてそれらを関係する人に周知することです。
対象になる作業の範囲や、具体的に何をどこまで行うかは、作業の環境によって変わります。自社の倉庫が該当するかどうかを含めて、所轄の労働基準監督署に確認してください。倉庫は屋内でも高温になることがあるため、「屋内だから関係ない」とは限りません。
体制の作り方
体制といっても、大きな仕組みは要りません。紙1枚に、次のことを書いて掲示すれば形になります。
具合が悪くなった人を見つけたら、誰に連絡するか。連絡先は内線か携帯の番号まで書きます。「責任者へ」ではなく、番号を書くのが要点です。夜間や休日の連絡先も分けて書きます。
次に、その場で何をするか。作業から離れて涼しい場所へ移す、衣服をゆるめる、身体を冷やす、水分と塩分を取る。意識がはっきりしない場合や、水が飲めない場合は、迷わず救急に連絡すると書いておきます。判断を現場に任せると、呼ぶのが遅れます。
そして、涼しい場所と、冷やすものをどこに置いてあるかを書きます。「迷ったら呼ぶ」と明記しておくことが、いちばん大事な1行になります。
現場でできる手当て
設備にお金をかけなくてもできることから並べます。効き方が大きく、費用の小さい順です。
水と塩分を、取りに行かなくてよい場所に置きます。事務所まで戻らないと飲めない状態だと、作業中は我慢します。作業する場所の近くに置くだけで、飲む回数が変わります。
休憩の場所を涼しくします。エアコンのある部屋が近くにあればそこを使い、無ければスポットクーラーや送風機を置きます。休憩は、時間を決めて全員で取る形にすると、取りにくい空気が消えます。
風を通します。倉庫は空気が動かないと体感の温度が上がります。扉を開ける、大型の扇風機を置く、屋根の換気を使う。風があるだけで、汗が蒸発して体温が下がります。
温度と暑さ指数を、作業する場所に表示します。数字が見えると、休憩を取る判断がしやすくなります。「今日は暑いから気をつけよう」より、「いま31度」のほうが行動に結びつきます。
服装も見ます。通気性のよい作業着、冷却材の入るベスト、帽子。保護具を外さずに涼しくする方法を探すのが要点で、安全のための装備を外すのは本末転倒になります。保護具の管理は保護具の点検と管理にまとめています。
建物と設備でできること
費用はかかりますが、建物の側で手を打つと効果が長く続きます。効くのは、日射を遮ることと、空気を動かすことの2つです。
屋根への遮熱の塗装や、断熱材を入れる工事があります。鉄骨の建物は屋根が焼けて、その熱が下に伝わります。天井の近くに溜まった熱を外へ出す換気も効きます。大型の扇風機を高い位置に付けて、空気を循環させる方法もあります。
出入口の扉を開けて風を通す場合は、防犯と、虫や埃の侵入も考えます。網戸やビニールカーテンを併用している現場もあります。冷蔵や冷凍の区画がある倉庫では、扉の開閉が温度に効くので、開ける場所を決めます。
スポットクーラーは、人のいる場所を狙って冷やす道具です。倉庫全体を冷やすのは現実的でないことが多いので、作業する場所と休憩の場所に絞って置くのが実用的な形になります。排気の熱をどこへ出すかも合わせて考えます。
冷蔵・冷凍の倉庫との温度差
冷蔵や冷凍の区画がある倉庫では、暑い場所と寒い場所を行き来することになります。この温度差は体に負担がかかります。
出入りの回数が多い作業は、時間を区切って交代します。防寒具の着脱がしにくいと、面倒で着ないまま入ってしまうので、脱ぎ着しやすい場所と形にします。庫内での作業は時間を決めて、長くなりすぎないようにします。
暑い場所で汗をかいた状態で冷凍庫へ入ると、体が急激に冷えます。汗を拭いてから入る、乾いた作業着に替えられるようにするといった手当てが要ります。
庫内の結露や凍結で床が滑ることもあります。暑さ対策と合わせて、転倒の危険も同じ場所で見ておきます。倉庫の災害の型は倉庫の安全対策にまとめています。
気づき方
熱中症は、本人が気づかないうちに進みます。周りが気づける形を作っておきます。
いちばん確実なのは、単独での作業を減らすことです。2人以上で作業していれば、様子がおかしいときに気づけます。1人で作業する時間帯がある倉庫では、定時の声かけを決めておきます。
朝と午後に、体調の確認をします。前の日の睡眠、朝食を取ったか、体調はどうか。熱中症は、前日の疲れや寝不足が効きます。聞くのは短くて構いません。
顔色、汗の出方、動きの遅さ。いつもと違うと感じたら、その場で休ませます。本人が「大丈夫です」と言っても、いったん座らせて水を飲ませます。無理をさせて倒れるほうが、作業への影響は大きくなります。
危険予知の題材にも入れます。暑い日は、その日の題材を暑さにして、水分の補給と休憩の時間を確認します。進め方は危険予知のやり方にまとめています。
暑さで作業の質も落ちる
熱中症を防ぐことが第一ですが、暑さは作業の質にも効きます。判断が鈍り、確認が雑になり、間違いが増えます。
夏の午後に誤出荷が増える現場では、暑さが原因の1つになっていることがあります。集中が続かないため、品番の確認が流し見になります。誤出荷の記録を月別に並べると、夏に山があるかどうかが分かります。
作業の速さも落ちます。同じ人数、同じ量でも、夏は時間がかかります。これを人の頑張りで埋めようとすると、無理が重なって体調を崩します。夏は処理量が落ちる前提で、人と時間を組むほうが結果として安定します。
暑さ対策は、安全のためだけの費用ではありません。間違いを減らし、作業の速さを保つための投資として見ると、優先順位が変わります。誤出荷の型と対策は誤出荷の原因と対策にまとめています。
作業の組み方で減らす
手当てだけでなく、作業そのものを組み替える方法もあります。
暑くなる時間帯を避けます。屋外での荷役や、日の当たる場所での作業は、朝のうちに済ませます。午後の2時から4時が最も暑くなることが多いので、その時間に重い作業を入れないようにします。
作業と休憩を交互にします。連続して2時間動き続けるより、30分ごとに短い休憩を挟むほうが、体温が上がりきりません。休憩の回数を増やしても、1日の作業量はそれほど変わらないことが多くあります。
人を交代させます。暑い場所での作業を1人が続けるのではなく、交代で回します。冷蔵の倉庫がある現場では、暑い場所と寒い場所の温度差にも注意します。急な温度差は体に負担がかかります。
繁忙期が夏に重なる倉庫では、応援の人が入ります。慣れていない人ほど、暑さに体が慣れていません。入って数日は、軽い作業から始めます。
熱中症の症状と段階
現場で判断するために、症状の目安を知っておきます。医学的な診断をするためではなく、呼ぶかどうかを決めるためです。
軽い段階では、めまい、立ちくらみ、筋肉のけいれん、大量の汗。この段階なら、涼しい場所で休ませ、水分と塩分を取らせて様子を見ます。自分で水が飲めるかどうかが、1つの目安になります。
進むと、頭痛、吐き気、体のだるさ、集中できない、といった状態になります。ここでは、自分で水が飲めない、または症状が改善しないなら、医療機関へという判断になります。
意識がはっきりしない、呼びかけに答えない、まっすぐ歩けない、体が熱い。この段階は迷わず救急に連絡します。その場で体を冷やしながら待ちます。
判断に迷う場面が必ず出ます。「迷ったら呼ぶ」と手順に書いておくことで、現場が判断を抱え込まずに済みます。呼んだ結果、大事に至らなかったとしても、それが正しい判断です。
荷役の場所と外の作業
倉庫の中より、トラックの荷台の上や、屋根の無い荷役の場所のほうが暑くなります。直射日光が当たり、荷台の鉄板が焼けているためです。
この場所での作業は、時間を区切ります。長くても30分で交代し、その間に水分を取ります。荷台の中は風が通らないので、扇風機を向けるだけでも違います。可動式のものを1台置いておくと、その日の便に合わせて動かせます。
日よけも効きます。屋根の無い荷役の場所には、テントやシートで日陰を作ります。待機している運転者にも涼しい場所を用意すると、荷役の間の体調も守れます。
雨の日と同じく、暑い日も荷役の場所の手順を別に決めておきます。積み込みの段取りは積み込みの順序にまとめています。
記録に残す
暑さ対策を行ったことを記録しておくと、体制を整えている証拠になります。大げさな様式は要りません。
日付、その日の温度と暑さ指数、休憩の回数、水分と塩分の補充、体調の確認の結果、気になった人がいたかどうか。日報に1行足す形でも足ります。
体調の異常があった場合は、詳しく残します。時刻、症状、その場の対応、搬送したかどうか、その後の経過。軽い症状でも記録します。同じ人が繰り返している、同じ時間帯に起きている、といった傾向が見えます。
周知したことも記録します。いつ、誰に、何を伝えたか。新しく入った人への説明は、その日に行います。暑さの手順を知らないまま作業に入るのが、いちばん危ない形です。
夏の前に準備する
暑くなってから慌てると、道具が手に入りません。5月のうちに準備を済ませます。
確認するのは、冷却の道具がそろっているか、休憩の場所が使える状態か、扇風機やスポットクーラーが動くか、暑さ指数の計測器の電池は大丈夫か、水と塩分の補充の担当が決まっているか。去年しまったまま壊れているということがよくあります。
手順の紙も、去年のものを見直します。連絡先が変わっていないか、休憩の場所が変わっていないか。人が入れ替わっていれば、周知もやり直しです。
繁忙期が夏に重なるなら、人の計画も先に立てます。応援の人が入る時期と、暑さのピークが重なる前提で、休憩の回数と交代の形を決めておきます。暑くなってから決めると、忙しさに流されます。
よくある質問
屋内の倉庫でも対象になりますか
屋内であっても、高温になる場所での作業は対象になり得ます。建物の構造や換気の状況で環境は大きく変わるため、自社の倉庫がどうかは、実際の温度を測ったうえで、所轄の労働基準監督署に確認してください。屋根の下だから安全、とは限りません。
暑さ指数はどう測りますか
専用の計測器が市販されています。温度計だけでは湿度が反映されないため、暑さ指数を示す機器を作業する場所に置くのが分かりやすい形です。複数の場所で値が違うことがあるので、いちばん暑くなる場所に置きます。
休憩を取るように言っても取りません
時間を決めて全員で取る形にします。「取ってよい」ではなく「この時間に取る」とすると、取りにくい空気が消えます。休憩の場所が遠い、涼しくない、といった理由で取らないこともあるので、場所の条件も合わせて見ます。
冷却のためのものは何を用意しますか
冷たい飲み物、塩分を含むもの、氷や保冷剤、冷やしたタオル、体を冷やせる場所。すぐ使える場所に、まとめて置いておくのが要点です。使ったら補充する担当を決めておかないと、いざというときに空になっています。
派遣や短期の人への周知はどうしますか
入った日に、手順を書いた紙を渡して説明します。連絡先、休憩の時間と場所、水分のある場所。この3つだけでも伝えておきます。慣れていない人ほど、暑さに体が慣れておらず、言い出しにくい立場でもあります。
記録はどのくらい残しますか
体制を整えていることを示す資料になるため、1年から3年残している現場が多くあります。体調の異常があった記録は、労働災害としての扱いが関わることがあるため、社内の規程に従って保管します。判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署に確認してください。
空調服を会社で用意すべきですか
法令で一律に定められているものではなく、社内の取り決めによります。支給している現場も、本人が用意している現場もあります。用意する場合は、電池の充電と保管の場所も決めておかないと、使われないまま放置されます。保護具と併用できるかも先に確かめます。ヘルメットや安全靴と干渉しない形かどうかは、実際に着てみないと分かりません。
屋外の作業が多い倉庫では何を優先しますか
日陰を作ることと、水分を近くに置くことの2つが先に来ます。テントやシートで日陰を1か所作るだけで、休憩の質が変わります。そのうえで、作業の時間帯を朝に寄せ、暑い時間に重い作業を入れないように組み替えます。設備の投資は、この2つを済ませてから検討しても遅くありません。
まとめ
倉庫の暑さ対策は、2025年6月から、熱中症のおそれのある作業について体制の整備などが求められるようになりました。報告の体制、対応の手順、そして周知の3つが中心になります。
体制は、紙1枚で作れます。連絡先を番号まで書き、その場で何をするかを書き、迷ったら呼ぶと明記する。判断を現場に任せないことが要点です。
そして、現場でできる手当ては、水を近くに置く、休憩の場所を涼しくする、風を通す、温度を表示する。どれも大きな費用をかけずに、今週から始められます。